抄録
西アフリカ・ギニアのボッソウでは、1976年以来、杉山幸丸らによって野生チンパンジーの長期継続観察がおこなわれている。個体数は約20個体前後で安定して推移してきた(Sugiyama, 2004;山越・竹元・松沢・杉山、1999)。通年観察により、全個体の出欠をほぼ毎日確認できる。2003年11月末から2004年3月初頭までの3か月余りのあいだに、6個体が死亡あるいは消失した。その顛末を報告する。11月18日まで平穏だった。その後、咳をする個体が目立ち始め、それが急速に群れ内に広まった。そして、12月初めに3個体の死亡(12月3日:1歳1か月男児、12月6日:推定年齢50歳を超える女性、12月7日:10歳男性)が確認された。同じ頃、1個体(これも推定年齢50歳を超える女性で死亡がほぼ確実)が消失した。咳は12月中旬にはほぼ終息した。また、べつの幼児1個体(2歳7か月女児)が、病気の最盛期に母親とはぐれて10日以上(少なくとも12月2日以前から)単独行動した。その子どもは12月11日に無事が確認され研究者らの24時間観察下に入った。研究者らの誘導で母親が子どもを発見し、12月13日に子どもは母親に抱かれた。しかし衰弱が徐々に進行して12月30日に死亡した。死んだ子どもたちの母親は亡骸を持ち続けた。ミイラ化した遺体は、女児は1月17日、男児は2月9日に、母親が放置したので回収した。女児の母親は、子どもと離れているあいだに腫脹が始まった。子どもの死後、約2か月群れにとどまり、3月1日を最後に消息を絶った。移籍と考えられる。以上の経過で、「ボッソウ2003年の流行病」によって5個体が死亡し、1個体が移籍した。ボッソウの東約4kmに位置するニンバ山とのあいだのサバンナに植林する「緑の回廊」計画が1997年に開始された。2003年も7000本を植樹した。そうした保全の努力についても報告する。