霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
セッションID: B-2
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口頭発表
約200年前に発見されていたコインブラティティ
*小林 秀司名取 真人Leila M. PESSOÂJoão A. OLIVEIRAAlfred R. LANGGUTH
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抄録

コインブラティティ (Callicebus coimbrai) は、1999年に Kobayashi and Langguth によって発見された比較的新しいサルである。これまで、本種が最初に確認されたのは、1994年1月30日、ブラジル北東部のセルジーペ州であるとされてきた。今回、著者のひとり小林は、ヨーロッパ大陸部にあるいくつかの自然史博物館を訪問し、オーストリアのウイーン自然史博物館とドイツのフンボルト大学自然史博物館の所蔵標本中に本種らしき標本を発見した。これらの標本について、頭蓋のサイズ、被毛のカラーパターン、上顎歯列の非計測形質に関してKobayashi and Langguth の原記載との比較分析を行ったところ、いずれの形質も、この記載によく一致し、上記の標本がコインブラティティであることが確認された。これらの標本の来歴に関して調査したところウイーン自然史博物館の4個体については、標本ラベルには何の記載もなく、採集地や採集者など、手がかりとなる一切の情報が不明であったが、標本につけられていたラベルの紙が20世紀の初頭に用いられていたことが確認されたので、これらの標本が少なくとも約100年近く前かそれ以前に採集されたものであることが判明した。一方、フンボルト大学自然史博物館所蔵の一個体に関しては、状況がやや異なっていた。標本ラベルにほとんど何の状況も記載されていないのはウイーン自然史博物館のそれと同様であったが、唯一、採集者名として Sieber の記載が見られた。このSieber とは、ホフマン博士の採集人として1800年代のごく初期にブラジル北東部にあるバイア市を拠点として採集活動を行った人物のことを指すと考えられる。そうすると、この標本は、約200年も前に採集されていたことになり、コインブラティティの属するマスクティティグループの中では、実はもっとも古く発見されていたことになる。前述のように、コインブラティティが記載されていたのは1994年と、同グループ中ではもっとも新しいが、発見そのものがもっとも古いことは、当時の学術探検の複雑な様相を反映して非常に興味深い。

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© 2004 日本霊長類学会
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