抄録
各地でニホンザルによる農作物被害が増加しているなか、その対策とニホンザルの保全を考えていく上で、被害をおこすニホンザルの生態学的研究が期待されている。そこで本研究では、サルの環境選択と生息地内の食物利用可能性の関連を明らかにすることを目的とした。調査は、三重県と奈良県の県境に生息し農作物被害を起こしているニホンザル一群を対象にラジオテレメトリ法による追跡調査を行なった。同時に農地における食物利用可能性の指標として各集落の採食可能な作物のある農地面積・果樹本数を、森林の食物利用可能性の指標として各植生における採食可能な樹種の胸高断面積合計・密度を月ごとに算出した。季節ごとにサルの行動圏を比較してみたところ、冬季に顕著な行動圏面積の縮小がみられた。一部の集落は冬季に集中利用されていただけでなく、年間を通じて利用されていた。また、行動圏を200m×200mのグリッドに区切り、それぞれのグリッドの利用頻度と代表植生を調べた。利用頻度を季節間で比較したところ、夏と秋では低頻度で利用するグリッドが多いのに対し、冬は低頻度で利用するグリッドの数が少なく高頻度で利用するグリッドの数がやや多く、夏と秋には行動圏内の広い範囲を低頻度で利用し、冬には狭い範囲を高頻度で利用していることが判明した。植生ごとの利用頻度を調べると、コナラ林は春から秋にかけてのみ利用されていた。食物利用可能性の変動をみてみると、農地では通年利用可能性が高いのに対し、コナラ林では月によって大きな差があった。以上から、森林の食物利用可能性が高い時期には、森林と農地の両方を利用しており、森林における食物利用可能性が低下する冬には、集落やその周辺の森林を主に利用していることが示唆された。冬季にみられた集落ごとの利用頻度の差から、食物利用可能性だけでなくその他の要因もサルの土地利用に影響を与えていたと考えられた。