霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
セッションID: B-17
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口頭発表
アンフィピテクス科(始新世東南アジア)の系統位置:体肢骨格形態からの示唆
*江木 直子高井 正成Soe Thura Tun  茂原 信生鍔本 武久西村 剛
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抄録
アンフィピテクス科は、始新世後半の東南アジアに分布した化石霊長類である。その系統的な位置は未解決で、真猿類の起源と関連して議論されてきた一方、化石曲鼻猿類のアダピス類と近縁であるという意見もある。始新世化石霊長類は主に歯顎の形態特徴から研究されているが、本研究では、アンフィピテクス科の系統的な位置の決定に四肢骨形態が有効であるかどうかを検討した。アンフィピテクス科の四肢骨については、上腕骨と踵骨・距骨の標本が見つかっている。これらの保存部位の計45形質について、アンフィピテクス科の形質状態を、現生種や第三紀前半の化石種のものと比べてみた。比較サンプルにはキツネザル上科、アダピス上科、オモミス上科、メガネザル、初期真猿類、広鼻猿類が含まれる。先行研究では、アンフィピテクス科の系統位置について、初期真猿類、アダピス上科ノタルクトゥス亜科、アダピス上科の基幹という主に3つが示唆されている。これらの系統仮説にしたがった場合について、系統解析プログラムMacCladeを用いて、アンフィピテクス科の形質状態の系統的な意義を解釈した。どの仮説に従った場合も、アンフィピテクス科の形態の半数近くが、現代型霊長類の中での原始的な状態の保持と解釈された。幾つかの形態は直鼻猿類や真猿類の共有派生形質と解釈することが可能で、四肢骨形態にもとづいて、アンフィピテクス類が少なくとも直鼻猿類に属すことは示唆できる。特に足根骨の形態には直鼻猿類の派生形質が多く見られる。アンフィピテクス科の上腕骨形態はアダピス上科基幹での形質状態とも類似点が多い。しかし、アダピス上科との共有派生形質と考えられるものはほとんどない。アンフィピテクス科とアダピス上科の四肢骨形態の類似は両者の近縁性を支持するとされていたが、この研究の結果はアダピス上科との類似はむしろ原始的と解釈されるべきであることを示唆する。
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© 2004 日本霊長類学会
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