抄録
近年600万年前に遡る初期人類が発見され、人類・チンパンジー分岐の様相の解明が進むかと期待されている。こうした最初期のホミニド間の関係、また、鮮新世猿人との系統関係の分析を進める上で、骨格特徴・生態特徴の極性の特定がきわめて重要である。ところが、そうした作業に欠かせないアフリカ類人猿化石資料は極めて貧弱である。ケニア、ナカリ山周辺は、後期中新世の動物相を産出することが知られていたが、本格的な発掘、地質学的調査は行われず、既知の後期中新世化石サイトとしてはケニアでただ一つ手つかずで残されていた。われわれはナカリ地域における古人類学的調査を2002年より開始し、23の化石サイトから200点を超える動物化石を収集した。化石の状態は断片化が進んでおり、中型以上の動物の資料が中心であった。単純に資料数を見ればウシ科とキリン科で過半数を占め、続いてサイ科、イノシシ科、ヒッパリオンなどが多数であった。2004年度の調査では、化石の豊富なサイトの集中的な発掘、柱状図の作成、年代決定を行う予定である。ところで、(ゴリラ(チンパンジー・人類))という関係があるとして、これらの運動様式の進化についての考え方は大きく二つに分かれる。1)チンパンジー・人類の最後の共通祖先は樹上性の類人猿であった。チンパンジー、ゴリラの地上性とナックルウォークは平行進化した。人類は地上に降りると同時に二足歩行に進化した。2)三者の人類の最後の共通祖先は地上性のナックルウォーカーだった。人類はその後、二足性に進化した。ナカリ地域での発掘はこの問題に答える証拠を見つけることを目指しているが、発表では現在利用できる資料からこの問題について議論を行う。なお、2002年度の調査は京都大学霊長類研究所COEプログラム、2003年度の調査は京都大学大学院理学研究科生物科学専攻21COEプログラムの補助を受けた。