抄録
’90, 12, 26, 仙台、八木山動物園において死亡したオランウータン(オスとメス各1頭)の解剖の機会を得た。今回はオランウータンの上肢における動脈系の分布ついて、血管造影写真の所見と合わせて報告する。オランウータンの上肢では上腕動脈、腋窩動脈を経て、尺骨動脈、橈骨動脈が前腕を下行し、手で浅掌動脈弓、深掌動脈弓を形成した後、総掌側指動脈として指の末梢に終わっていた。上腕動脈からは上腕深動脈、上尺側側副動脈、下尺側側副動脈が順次分かれ、肘窩部では前腕橈側面を上行する動脈の分岐がみられ、遠位部では尺骨動脈と橈骨動脈に分かれていた。この尺骨動脈と橈骨動脈の分岐部では同時に前腕後面を下行する動脈の分岐がみられた。この動脈は回外筋遠位縁を通り抜けたところで前腕後面を上行する血管と前腕伸筋群に分布する血管に分かれ肘関節動脈網を作っていた。尺骨動脈は上腕動脈からの主幹で、円回内筋の深層を通り浅指屈筋と深指屈筋間を走行していた。この部分では尺側反回動脈と前腕前面を下行する動脈枝を分岐していた。このように、オランウータンの上肢の動脈系は動脈管束を形成するロリスなどとは異なり、上腕動脈-尺骨動脈を主幹とするヒトやチンパンジーと多くの点で似ていた。しかし、肘窩部における分岐様式に違いが見られた。一つは上腕動脈が尺骨動脈と橈骨動脈に分かれる手前で前腕橈側面を上行する動脈が存在すること、もう一つは尺骨動脈から直接前腕の前面、後面を下行する動脈である。これらの動脈は、その走行と筋分布などからそれぞれヒトの橈側反回動脈、前骨間動脈、後骨間動脈と類似している。これらの違いとオランウータンが樹上生活に適応していくなかで骨や筋肉同様、血管系も分化していった可能性について考察を試みる。