霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
セッションID: P-38
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ポスター発表
ナワバリ制の起源
堀内 史朗
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抄録

(目的)霊長類における群れ間関係は概して敵対的である。群れ間の争いはエサの価値が高い場所ほど激しい。ところが、エサの価値が高い場所ほど群れの密度は高いと考えられるが、密度が高い場所ではナワバリ制、つまり激しい争いを伴わないで侵入群が敗北する傾向が見られる。進化ゲーム理論はナワバリ制の安定性を説明してきた(ブルジョワ戦略のESS)が、その起源については明らかにされていない。本研究では、確立したナワバリを前提にせず、純粋なタカハトゲームを用いてナワバリ制の起源について考察する。
(方法)計算機実験を行う。直線上に任意数の群れの分布を仮定する。タカ派群は隣接群との距離に関わらず最大限の範囲を遊動する。ハト派群は隣接群と出会わない範囲を遊動する。群れ間で遊動範囲の重複がおこるとエンカウンターが発生し、両群ともにコストを被る。確保した遊動範囲面積のエンカウンターコストに比しての利得をa、群れ間の平均距離(密度の逆数)をdとする。各変数の大きさが各戦略群の頻度に及ぼす影響を調べた。
(結果)まず、各戦略群がランダム分布している状況から出発して、戦略頻度の時系列変化を調べた。a·dが大きいほどタカ派群が集団中に広がり、a·dが小さいほどハト派群が集団中に広がる傾向が見られた。次に、各戦略群が支配する集団の安定性を、他の戦略群が1群のみ侵入した状況を元にして調べた。タカ派群集団が安定なのはa·dが大きいとき、ハト派群集団が安定なのはa·dが小さいときだった。
(考察)以上の結果は、エサの価値が高いほどタカ派戦略群が有利になり、密度が高いほどハト派戦略群が有利になることを示唆する。つまり、エサの価値、密度がともに高い地域では、タカ派・ハト派どちらも有利とはいえないのである。このような矛盾する状況に直面する中で、ブルジョワ戦略的なものが創発したと考えられるのである。

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© 2004 日本霊長類学会
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