抄録
(目的)放飼場に樹木植生や人工的な3次元構築物を導入することは、飼育環境のエンリッチメントに有効であろうと思われる。しかし、今までの経験ではニホンザルの採食圧は強く、放飼場内の植生が永続することはほとんどない。今回、樹木植生のある放飼場(9,000m2)に56頭のニホンザルが移入された。今後の樹木の枯死など植生の単純化を避けるために、ニホンザルによる樹皮食の具体的な傾向を調べ、樹皮食の選択性および立体構築物と樹皮食の関係について解析した。
(方法)ニホンザルは調査対象の放飼場に2003年8月に移され、樹皮食の調査は2004年3月および5月に行った。樹皮食は5m×5mの25個のコドラート内で確認された樹皮食痕で評価し、採食されたおよその樹皮面積を計測した。
(結果)全体では、コドラート内で確認された14種504本(樹高1.5m以上のみ)のうち、6種85本の樹に樹皮食痕が認められた。サカキ、ネジキ、カナメモチの採食された樹皮面積は、優占種であるヒサカキよりも大きかった。ジャングルジム様の立体構築物の周囲では、採食された樹皮面積が立体構築物のないところよりも大きかった。
(考察)樹種によって樹皮の食害を受ける程度が異なり、もともと密度が低いのにサルに好まれるネジキやカナメモチなどは今後絶滅する危険性がある。また、休息によく利用され、樹冠に容易に近づくことのできる立体構築物は樹皮の食害を促す。立体構築物周囲の特定の樹種は樹皮食からの保護が必要であり、また長期的には、放飼場植生の自然更新を促す方法が模索されてもよいだろう。