抄録
(目的)アフリカ大型類人猿では凝視行動が様々な社会的機能をもつことがすでに報告されている。しかし、単独性の強いオランウータンの凝視行動については、ほとんど知られていない。そこで本研究では、リハビリセンター出身の半野生個体を対象として、オランウータンの凝視行動の特性とその社会的機能を明らかにすることを目的に調査を行った。
(方法)リハビリテーション出身の3歳∼22歳の計36個体(コドモ24頭、ワカモノ8頭、オトナ4頭)を対象として、2000年∼2004年にリハビリセンターに隣接する森林内で観察を行った。1日に1個体を追跡し、ビデオカメラで行動を記録した。「凝視行動」を「静止した状態で3秒以上、視線を固定する行動」と定義し、次の3つに分類した。Staring:30?以上離れた相手を凝視、Peering:30?以内にいる相手の顔または手元を凝視、Mutual Gazing:同時に互いの顔を凝視。
(結果)StaringとPeeringの平均継続時間は9秒であった。また、Mutual Gazingはわずか7例しか観察されなかった(Staring484例、Peering341例)。Staringは社会交渉や採食をしている個体を対象に行われることが多く、Staring後は対象個体への接近等が観察された。また、Staringを行った個体の年齢によって、対象個体の年齢や行動に違いが見られた。また、Peeringは採食または社会交渉(遊び)をしている個体を対象とすることが多く、Peering後は食物の強奪や遊び、「隣で同じ物を食べる」という行動が観察された。
(考察)Staringは他個体に対する社会的な関心を反映している行動であると考えられる。また、Peeringは「食物や社会交渉」及び「近接することへの寛容」の懇願など、アフリカ大型類人猿と同様な社会的な機能を果たしていると考えられる。