抄録
(目的)オランウータン(Pongo pygmaeus)は樹上生活を中心とする大型類人猿であり、把握に適応した足形態をもつ。一般に、骨格筋の筋線維型の分布頻度や筋線維の太さは各種哺乳類のロコモーションや行動能力と相関が強いとされ、前回、我々はロコモーションと筋線維型との相関を推察する第一段階としてオランウータン下肢の血管系について検討を行った。今回はその次段階として、下肢の筋系についての検討を行ったので大腿部を中心に報告する。
(方法)仙台の八木山動物園にて死亡したオランウータン液浸標本(オス、メス各1頭)を用いて、下肢の筋を肉眼解剖学的に観察し、他の霊長類を含めた文献データとの比較検討を行った。
(結果)大腿屈筋外側群に特徴的な走行が見られた。この外側群の最外側には、坐骨結節を起始とし大腿骨粗線外側唇、腓骨頭および外側膝蓋支帯に停止し、坐骨神経直接枝の支配を受ける筋(1)が走り、その内側には膝窩の外側壁を構成する扁平な筋(2)が存在した。この筋(2)は大腿骨殿筋粗面下方および粗線外側唇と内側唇の間から起こり、腓骨頭、下腿外側屈筋起始腱および下腿筋膜に停止し、総腓骨神経に支配されていた。
(考察)ヒヒの大腿二頭筋は坐骨結節を起始とする長頭しか存在しないが、その長頭は2部に分かれている(Daris R.S.and Charles D.W., 1973)。先人の記載ならびにそれぞれの筋の走行と神経支配などから、筋(1)は大腿二頭筋の長頭、筋(2)は短頭に相当するものと思われる。よって、オランウータンにおいて大腿二頭筋長頭と短頭は結合していないと考えた。他の霊長類には見られない大腿二頭筋のこの特徴は、樹上生活におけるオランウータン特有のロコモーションと関わりがあると考えられる。