抄録
アジルテナガザルにおけるカテゴリー認識を調べる実験をおこなった。対象としたのは実験時6歳のアジルテナガザル1個体で、誕生直後より3年間人工保育され、その後は両親と弟個体と同じケージで飼育されていた。刺激には10種類の食物の写真と、10種類の人工物の写真を用いた。刺激の提示と反応の検出には、タッチパネル付17インチ液晶モニターを用いた。課題は遅延見本あわせ課題で、スタート刺激に触れると画面上のランダムな位置に見本刺激が提示される。見本刺激は触れる度に提示位置を変え、2∼4回触れると選択画面になる。選択画面では、見本刺激(正刺激)の他に見本とは異なる写真(妨害刺激)が1枚提示されており、正刺激に触れると正反応としてチャイムが鳴り、妨害刺激に触れると誤反応としてブザーが鳴らされた。被験者は試行の開始時と選択時には毎回食物片を報酬として受け、正反応時には2∼3倍量の食物片を受け取った。刺激の組合せには(1)見本と妨害刺激が同じカテゴリーの場合と(2)見本と妨害刺激が異なるカテゴリーの場合があり、(2)は(2-1)見本が食物の場合と、(2-2)見本が人工物の場合を別々に分析した。1セッションは12試行で、(1)、(2-1)、(2-2)は4試行づつ、ランダムな順序で提示された。各セッションにおいては、食物と人工物は1種類づつ用い、セッション毎に食物と人工物の組合せを変えて45セッション行った。45セッション分を合計しての正答率は、(1)41%、(2-1)53%、(2-2)36%であった。正答率の比率を各組合せ間でカイ自乗検定(df=1)により比較したところ、(1)と(2-2)の間には差がなく、(1)と(2-1)、(2-1)と(2-2)の間には有意な差が見られた。これらの結果から、被験者は見本あわせ課題は未修得であるが、食物と人工物という2つのカテゴリーを認識しており、選択画面において食物の写真をより高い比率で選択していたことが示唆された。