抄録
(目的)咀嚼や発声を行うためには、咀嚼筋、表情筋、舌骨上筋、舌骨下筋、舌筋など多くの筋が関わってくる。オランウータンの咀嚼・発声様式と筋形態の間に相関がみられるか検討するため、前回、表情筋について報告した。今回は咀嚼筋および舌骨上筋の形態的特徴を観察、報告する。また発声やロコモーションに関わりがあるとされる喉頭嚢についても肉眼的観察結果を報告する。
(方法)仙台の八木山動物園にて死亡したオランウータン液浸標本(オス1頭、18歳)を用いて、頭頚部の筋および喉頭嚢を肉眼解剖学的に観察し、他の霊長類および家畜を含めた文献データとの比較検討を行った。
(結果)顎二腹筋は側頭骨乳様突起から起こり、二腹筋の形態をとることなく下顎角内側に停止した。茎突舌骨筋は茎状突起から起こり分岐することなく舌骨に停止した。喉頭嚢は喉頭の外側壁から左右に起こり、鎖骨を境に上部は背側に向かい、下部は鎖骨-大胸筋鎖骨部間、胸筋間に分かれて伸び、前者は腋窩に深く入り込んでいた。各々の嚢は更に深部で分岐をし、筋・骨格並びにこれらを支配する脈管、神経系を包含するかのような形態を示していた。ゴリラとの比較では分布の仕方に大差はみられなかった。
(考察)オランウータンの顎二腹筋は他の霊長類とは全く異なる走行を示すが、ウマに存在する顎二腹筋・後頭下顎部に走行が類似していた。家畜において後頭下顎部を有する動物はウマだけであり、この2者の筋形態と咀嚼方法を今後、比較検討したい。また、顎二腹筋前腹を欠くことで、舌骨上筋(顎舌骨筋、オトガイ舌筋など)に機能的変化がみられるか検討したい。
オランウータンとゴリラの喉頭嚢は同様の構造を持っているにも関わらず、生活様式や行動には様々な違いがみられる。今回、得られたデータは2者の生態学的特徴も含めて比較することで、今後、喉頭嚢の機能を検討する材料になると考えられる。