抄録
上顎大臼歯のhypoconeの発達程度は新世界ザルの分類、特にマーモセット類とその他の新世界ザルの分類にとって重要である。化石種の場合は下顎しか発見されていないものが多数あり、これらの系統的位置づけはむずかしい。上下の歯と歯が咬み合うと、咬頭や稜線付近にwear facetができる。下顎大臼歯のwear facetから上顎大臼歯の形態を推測できれば、下顎だけの化石種でも系統的位置づけが可能である。下顎大臼歯のwear facet 7、8、10は、上顎大臼歯のhypoconeと咬み合って形成される。特にwear facet 8 (以下facet 8と略す)の存在はhypoconeの有無を示す可能性がある。しかしfacet 8の有無とhypoconeの有無が明確に対応するかどうかは十分に検証されていなかった。そこで、本研究ではまず、この facet 8とhypoconeの関係を分析した。
観察方法としては、下顎大臼歯の咬頭全体の磨耗程度を「弱」、「中」、「強」の3つに分け、下顎大臼歯の facet 8と上顎大臼歯のhypoconeの関係を実体顕微鏡で観察した。資料はリスザルとマーモセット類のマーモセット、タマリンを対象とし、観察は上下ともに第1大臼歯にかぎられた。
観察の結果、摩耗程度「中」と「強」においては、 facet 8の有無からhypoconeの有無が十分に推測できる。つまり、この2つの磨耗程度であれば、facet 8とhypoconeの相関関係において下顎大臼歯から上顎大臼歯の形態を推測することは可能であった。
この結果を上顎大臼歯が発見されていない化石新世界ザル(Aotus dindensis 、Mohanamico、Patasola、Xenothrix、Nuciruptor)に適用し、その系統的位置を分析した。