抄録
サル類の神経疾患モデルを用いた治療法、予防法の開発では、作出したモデルの有用性と治療法の有効性を評価す技術の開発が重要である。我々は、カニクイザルの前肢の機能を比較的簡便に評価する方法としてアップルテスト(AT)を確立した。パーキンソン病モデルザルとウシ海綿状脳症(BSE)由来のプリオン接種ザルについてATにより前肢の機能評価を行った結果を紹介する。
【方法】 成体カニクイザルに低濃度の神経毒MPTPを1回/週の割で静脈内投与してパーキンソン病モデルを作出した。BSE発症ウシ脳乳剤を幼若カニクイザルに脳内接種または経口投与し、3ヶ月間隔で前肢の機能評価をおこなった。アップルテスト(AT)はケージ前面左右端にセットしたトレー上に1cm角、3~5mm厚の報酬(リンゴ片)を等間隔で4個おき、左右それぞれの手で報酬を取る行動をビデオ撮影した。
【結果】 MPTPに対する感受性はカニクイザルで著しい個体差が認められるが、安定したパーキンソン病類似症状を呈するカニクイザルでは振戦と動作緩慢症状に伴い報酬獲得までの時間が著しく遅延し、前肢の機能障害が観察された。線条体を標的とした遺伝子治療後には、治療側に対応した前肢の機能回復が確認された。BSE脳乳剤を脳内接種した3頭のカニクイザルでは接種後25ヶ月間はATによる前肢の機能障害は観察されなかった。接種後28ヶ月目に脳内接種を行った3頭中2頭において報酬のつかみ取り行動に異常が確認された。これら個体は、前肢の機能障害とともに散発的な振戦が観察されている。一方、同時期に脳内接種した1頭と経口投与した3頭では顕著な異常は認められていない。
【考察】 以上の結果から我々が確立したアップルテストはカニクイザルの前肢の機能を指標として、神経症状を比較的簡便にかつ客観的に評価できる方法であることが判明した。神経疾患モデルの行動についてはビデオで紹介する。