抄録
ヒトの社会行動における際だった特徴は、旅をすることである。ヘロドトスやマルコ・ポーロは言葉も通じない地方を旅し、無事に故郷に戻っている。近縁の類人猿を含めて、ヒト以外の霊長類では見られない行動特性である。これは、見知らぬ人がやって来ても直ちに攻撃したり親和的に受け入れるのではなく、とりあえず存在を容認する許容(tolerance)という心理特性があるからだろう。霊長類の社会構造を理解するため、これまでもっぱら攻撃と和平といった二値的なカテゴリーの行動を分析して来たが、ヒトの社会構造の特徴を描き出すには、許容という概念が必用ではないだろうか。