抄録
歯は咀嚼機能のフロントラインとして、機能的に重要な役割を担っている。その歯は表面が硬度に石灰化し、比較的脆いエナメル質で覆われ、内部が比較的石灰化の度合いが低く、粘性の高い象牙質で構成されている。歯科の現場で表面を覆うエナメル質が壊れて剥がれてしまうということが見られることがある。これは、自然状態では時によって致命的な、文明社会でも少なからぬ影響を咀嚼にきたすことになる。では、エナメル質はこれに対抗する手段を持っていないのであろうか。エナメル質は均一な素材ではなくエナメルプリズムと呼ばれる繊維の束であり、繊維は内側から外側に向かってある規則を持って並んでいる。エナメルプリズムはまっすぐではなく、三次元的にサインカーブを描き、またお互いに並行ではなく複雑に交差し合っている。エナメル質に出来た亀裂がそれ以上伸長することをこの複雑なエナメルプリズムの構造が阻止しているといわれている。また、エナメル象牙境に存在するスキャロップと呼ばれる凹凸がエナメル質の剥離を阻止していると考えられている。しかし、エナメルプリズム及びエナメル象牙境の構造の機能的な研究は現段階で形態からの推測の域を出ていない。本研究では有限要素法を用いて単純化したエナメル象牙境を加味したエナメルプリズムのモデルを作り、ある一定の加重条件下でエナメルプリズムの構造がどのように応力分布に影響をもたらすかをシミュレートし、実際の臨床例とあわせて議論した。その結果、応力はエナメルプリズムのサインカーブの特定の部位に集中する。エナメルプリズムがお互いに交差していることがエナメル全体における応力集中を分断する役割を持っている。スキャロップ構造はエナメル象牙境における応力を分散させる。しかし、直線に近いカーブを描くエナメルプリズムにスキャロップ構造が付随した場合、逆に高い応力を引き起こすことになり不利な点となる。