抄録
目的) アルツハイマー病患者の脳内に多数観察されるアミロイドβタンパク質(Aβ )は、正常老化した霊長類、イヌ、クマ等に観察されている(Selkoe DJ等、1987)。マカクサルでは、アカゲザルやカニクイザル(Selkoe DJ 等、1987;Nakamura S等、1995)にその存在が報告されているが、ニホンザルでの記載はなく、また各大脳皮質領野の詳細な究明も行われていない。今回、ニホンザル脳内におけるアミロイドタンパク質の有無と大脳皮質領野間の違いを明らかにするために、免疫組織化学法を使用して調べた。
(方法) 材料にはニホンザル29歳メス(3例)と9歳メスを用いた。4%パラホルムアルデヒドで固定した脳の切片を作成し、Aβ 40に対する抗体を用いて免疫陽性構造を調べた。
(結果) 9歳ニホンザルでは、大脳皮質各領域、海馬体、扁桃体においてAβ 40の免疫陽性構造は観察されなかった。29歳においてはAβ 40の免疫陽性構造が、前頭連合野(46、45、12、13野)、側頭連合野 (TE野)、頭頂連合野(PE野)、帯状回皮質(24、25野)、島、扁桃体には認められたが、一次視覚野(17野)、一次体性感覚野(1、2野)、一次運動野(4野)、海馬体には観察されなかった。
(考察) 老齢期ニホンザルにおいてアミロイドタンパク質の沈着が、大脳皮質連合野、扁桃体、帯状回皮質において観察された。従来、Aβ 40は老齢カニクイザル脳組織に対して毒性作用を示すこと(McKee AC 等、1998)や興奮性シナプス構造タンパク質の分解(Roselli R等、2005)を引き起こす事が報告されているので、サル脳老化に伴う脳機能低下にAβ40が作用を及ぼしていることが予想される。一方、海馬体に観察されない点が、アルツハイマー病所見と異なる点であり、その原因については今後明らかにする必要がある。