抄録
U5は村山らにより見いだされたリンパ球抗原であり、霊長類の種により発現リンパ球が異なる極めてユニークな抗原である。我々はサル類をモデルとして心理的ストレスが免疫系に及ぼす影響を解析し、母子分離のような高レベルの急性ストレス負荷では CD16陽性/NK細胞が減少し、U5陽性/B細胞が増加することを報告してきた。ストレス負荷時の反応が異なる二種類のリンパ球抗原について、その応答機序と慢性ストレス負荷時の反応について調査した。
代表的ストレスマーカーであるコーチゾルとの関連を日内変動およ実験的コーチゾル負荷時で調査した結果、NK細胞のレベルはいずれの場合もコーチゾルレベルの変化と有意に相関した(既報)。一方、 U5+/B細胞レベルにはいずれの場合も顕著な変化が見られなかった。老 齢雌カニクイザルと若齢雌カニクイザルを二週間同居させ、ストレス評価指標の継時的変化を調査した。若齢ザルでは同居直後にコーチゾルと NK細胞のレベルが増加するが、同居につれて両者とも同居前の値に低下した。一方、老齢ザルでは同居後14日目にコーチゾルレベルとNK細胞レベルが急激に上昇した。老齢ザルでは同居期間が長引くにつれて、次第に同居に伴う個体関係の調整による心理的ストレスが増加していることが示唆される(既報)。このことは、老齢ザルでは同居後半に 「威嚇行動」と「恐れ/回避行動」が同時に出現する事実からもうかがえる。興味あることに、U5+/B細胞レベルは老齢ザルの場合にのみ同居直後に急増し同居期間中を通じて高いレベルを維持した。 これまでU5+/B細胞の増加は一過性ストレスよりも長期慢性スト レスを反映する可能性が示唆されていたが、他個体との同居は老齢ザルでは低レベルではあるが持続する慢性ストレスとなり、U5+/B細胞の持続的増加が生じる可能性が示唆された。
細胞レベルでのU5抗原発現についてもあわせて紹介する。