抄録
目的: 自然発生の稀なカニクイザル腎細胞癌の病理学的性状を明らかにすること。
方法: 雄・9歳8ヶ月齢のカニクイザルが約1ヶ月に渡り、食欲不振、重度貧血を呈し、触診にて腹腔内に大型腫瘤が確認されたため、予後不良と判断された。摘出腫瘤を病理組織学的及び免疫組織化学的〔抗Cytokeratin, Vimentin, Renal cell carcinoma(RCC), ChromograninA, Synaptophysin, Alpha-1-fetoprotein(AFP)抗体〕に検索した。
結果: 病理解剖で左腹部に直径20cm大腫瘤、肝臓全葉に多数の結節、左縦隔部に3cm大腫瘤が認められた。腫瘤内は壊死を伴う多結節状病変からなり、腎髄質構造が僅かに残存していた。明瞭な核小体を有する大小不同な高度円形異型核と、好酸性微細顆粒状あるいは空胞状で淡明な胞体を有する腫瘍細胞が、細い線維性結合組織で囲まれた小胞巣状、腺管状、乳頭状、一部では嚢胞状という多彩な構築で増殖し、核分裂像も散見された。腫瘍細胞の顕著なリンパ管及び静脈侵襲、肝臓、肺、肺門リンパ節、右側副腎に転移巣が認められた。免疫組織化学的検索では、Cytokeratin強陽性、Vimentin陽性、RCCとAFPは一部の腫瘍細胞で陽性を示した。ChromograninAとSynaptophysinはいずれも陰性であった。
考察: 腫瘍細胞の組織構築から上皮由来の悪性腫瘍であることが推察された。左上腹部という発生部位と左副腎が認められなかった点、肝に多数の結節病変が認められたという3点から、腎臓腫瘍・副腎腫瘍・肝臓腫瘍の類症鑑別が必要であったが、発生部位・病理組織像・免疫組織化学的検索結果により、この症例は腎細胞癌と確定診断した。組織分類としては、胞体が好酸性顆粒状の顆粒細胞型と胞体が明るく空胞状の淡明細胞型の混合型とした。