霊長類研究 Supplement
第23回日本霊長類学会大会
セッションID: C-10
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口頭発表
ヤクシマザルにおける性交渉パタンの多様性(予報)
*中川 尚史杉浦 秀樹松原 幹早川 祥子藤田 志歩鈴木 滋下岡 ゆき子西川 真理
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抄録
ニホンザルは射精に至るまでに複数回マウンティングを繰り返すマルチマウント種とみなされている。しかし、1回のマウンティング・シリーズ(以下、MS)中のマウンティング回数、シリーズ時間長のみならず、その開始、および終了においてイニシアチブをとる性も様々である。本発表では、ニホンザルにみられるこうした性交渉パタンの多様性を、雌雄の繁殖戦術という視点から眺めてみる。調査対象としたのは鹿児島県屋久島西部低地林に生息するヤクシマザルE群。2005年9月9日から12月19日の間に、第1位雄、および7頭のオトナ雌中発情の見られた5頭を追跡対象とし、1日最低6時間の同時3個体追跡を行い、性・社会交渉(接近、退避、マウンティング、毛づくろいなど)について、生起時刻、相手と方向を記録した。得られたデータを今回は雄の属性毎に分けて分析したところ、以下のような結果となった。射精にまで至ったMS平均時間長は、第1位雄がそれ以外の群れ雄や群れ外雄に比べて長かった。平均マウント回数は3群間で大差ないため、この違いはマウント間隔長の違いが反映した結果であった。交尾相手となった雌の平均順位は、第1位雄がそれ以外の群れ雄や群れ外雄に比べて高かったことを鑑みれば、第1位雄は自身の優位性を生かして高順位雌と交尾しつつ、他の雄とは交尾させないよう振舞っていることが示唆された。次にMS開始直前に接近した性を比較すると、雌が接近する割合は、交尾相手が第1位雄、それ以外の群れ雄、群れ外雄の順で高くなった。雄が接近する割合が3群間で大差ないことから、この差は雌が第1位雄以外の群れ雄を、さらには群れ外雄を好むためと考えられた。他方、MS終了直後退避を示した性を比較すると、雄が退避する割合が、第1位雄、それ以外の群れ雄、群れ外雄と順に低くなることが分かった。これはこの順に他の発情雌が得やすいがために立ち去るからかもしれない。
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© 2007 日本霊長類学会
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