抄録
テングザルはマングローブや泥炭林といった林内での調査が困難な地域を生息地として好むため、過去の研究の多くは彼らが川岸にいる間の行動を可能な限りボートから観察するという手法が主流であった。そのため彼らの林内での採食行動や遊動の詳細な研究は、ほとんどなされてない。本研究では、林内までテングザルの追跡が可能な川辺林を選び、彼らの林内における採食行動と遊動を明らかにすることを主な目的とした。2005年1月~2007年3月の間、マレーシア・サバ州のキナバタンガン川支流のマナングル川流域で調査を行った。我々はテングザルの単雄群を一群定め(Be群;オトナ・オス1、オトナ・メス6、コドモ6、アカンボウ5 計18頭)、人付けと個体識別をして、群れのオトナ・オスとメスを終日個体追跡した(06:00~18:30)。2005年5月~2006年5月の間で、集中的に個体追跡によるデータ収集がなされ、総観察時間(2637hr)の休息、採食、移動への時間割合配分は、76、20、3%であった。Be群は、一日平均741m(n=160)移動し、川岸から内陸へ垂直に500mを超えることは稀であった。また、総採食時間の葉、果実、花への時間割合の配分は66、26、8%であり、合計194種の植物に加えシロアリが採食された。全体としてはテングザルの葉食性の強さが示されたが、各月毎で見ると採食時間の50%以上を果実に費やす月も見られるなど、果実食性の非常に強い時期もあった。林内での詳細な観察を行った本研究は、従来の研究とやや異なり、テングザルの多様で且つ強い果実選好を示す結果となった。