霊長類研究 Supplement
第23回日本霊長類学会大会
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大会実行委員会企画特別集会
  • -特定鳥獣保護管理計画への活用
    千々岩 哲
    p. 1
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     日本においてニホンザルの農林作物被害の歴史は長く、これまでに様々な取り組みがなされてきた。現在は、特定鳥獣保護管理計画(以下、保護管理計画)を主軸とする総合的な取り組みへと視点が広がり、幾つかの試みが各県で進められている。滋賀県においては、この制度に則り、いち早くニホンザルの保護管理計画が策定された。そして、実現に向けての模索が続けられ、市町村単位での動きもみられるようになっている。その例として、より効果の高い侵入防止柵の開発と設置、作付け工夫による被害低減、ウシの放牧や里山管理の推進による農地への侵入抑制などの取り組みなどが挙げられ、地域住民やNPOが主体的に関わっているものもある。一方、保護管理計画に謳われる生息地保全に活かせる研究は少なく、研究サイドと実務サイドにギャップがある点も否めない。
     本自由集会では、5ヵ年計画策定年度を迎えた滋賀県におけるニホンザルの保護管理にまつわる様々な取り組みを報告していただき、地方行政・住民(NPOなど)・研究者を交え、保護管理計画への活用法を議論する場としたい。また、発展に向けた課題を整理したいと考えている。

    1)滋賀県の地域環境と猿害発生様式             千々岩哲(株式会社ラーゴ)
    2)ニホンザルの生息地利用-金華山の事例から        辻大和(麻布大学)
    3)獣害対策としての里山管理                野間直彦(滋賀県立大学)
    4)生息地改善への試み-強度間伐跡の下層植生        西村知記(かもしかの会関西)
    5)獣害に強い集落環境を目指した取り組み-住民の合意形成をいかに図るか?
    山中成元(滋賀県農業技術振興センター)
    6)第二次特定鳥獣保護管理計画(ニホンザル)策定に向けて  福島森(滋賀県自然環境保全課)
    7)ニホンザルの保護と管理の狭間から-分布域管理に向けて  大井徹(森林総合研究所)
    8)意見交換
自由集会
  • 遠藤 秀紀
    p. 2
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     遺体はただの研究材料ではない。いかなる遺体も喜んで譲り受け、目の前に現れた遺体から最大限の知を導き出すのが、遺体を研究するプロの責務だ。ゾウもクジラもネズミもコウモリもそしてサルたちも、わけ隔てなく収集し、文化の源泉として未来永劫の安住の地を確保していく。そして遺体と社会との幸せな間柄を探る姿が、遺体科学の本質にある。今年も遺体科学の集いを開きたいと思う。二つの演題を用意してみた。
     「標本付帯DICOMファイルのサーバー常置へ向けて」(遠藤秀紀)・・・京都大学霊長類研究所の骨格標本情報がウェブ公開されつつある。続いて、標本のCTスキャンによるスライスデータをDICOMファイルで公開したいと考えている。ファイルは、解析目的に合わせ、ボクセルやポリゴンに変換して思いのままに使うことが可能だ。そして何より大切なのはプロジェクト全盛の世の中で必ず表出してくる受益者負担や説明責任という魔物を一掃し、文化の発展のために、完全なる自由の下にデータを世界中で楽しんでもらうという理念だ。
     「microCTを使った骨格内部構造の観察-データの蓄積に向けて」(江木直子)・・・骨格内部構造についての機能解釈は、切断断面やx線影像にもとづいて内部構造の観察は行われてきたが、破壊的な方法で観察できる骨格標本には限りがあるといった技術的な限界があった。近年、microCTなどの透過計測機器は,骨格の微細な内部構造の非破壊的観察を可能にした。しかし、研究例は少なく、今後骨格内部構造の機能仮説を検証するには、広い分類群で様々な骨格の内部構造の形態データを蓄積し、その多様性と普遍性を見極めていくことが必要になるであろう。本発表では、現在までにmicroCTを用いて行った内部構造の観察をもとに、その撮影方法や解析についての実例をあげ、様々な骨格の内部構造データの蓄積に向けての方法を探る。
  • 渡邊 邦夫
    p. 3
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    野生ニホンザルによる被害問題は、近年ますます拡大し続けており、市街地近郊での人身被害も珍しいことではなくなってきている。1999年改訂された鳥獣保護法の下で、特定鳥獣保護管理計画による個体群管理の方向性が打ち出され、これまで13県がそれぞれの特定計画を作成し、実施してきた。その後6年を経過して、現在その見直しが必要とされている。現状での問題点は何なのかを明らかにしながら、野生ニホンザルの個体群管理は如何にあるべきなのかを考えてみたい。
  • 五百部 裕
    p. 4
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    現在の霊長類学は、野外での社会生態学的・行動学的研究にとどまらず、化石資料の採集や骨格標本の収集、さらにはDNA抽出のためのサンプルの収集など、さまざまな分野において、海外での調査抜きでは成立しないと言っても過言ではない。そしてこれらの調査は、野生霊長類の分布の特徴から、必然的に教育や研究環境がいまだ十分に整えられていない、発展途上国で行われることが圧倒的に多い。この場合、こうした調査をもとにして得られた研究成果を調査実施国に還元してゆくことは、 研究者の大きな責任の一つであろう。しかしながら、どのような形で研究成果を還元するかは、それぞれの調査地や調査実施国の事情、さらには研究の形態などによって、さまざまな方法が考えられる。そこでこの自由集会では、まず最初に、長年、アフリカのギニア共和国で野生チンパンジーの野外調査を行ってきた杉山幸丸会員に、昨年より同国で始めた活動について紹介していただく。具体的には、杉山会員が、昨年11~12月にギニアの三つの大学で生態学に関する講義を行ったという活動である。その上で、杉山会員の話題提供を中心として、調査実施国に対する研究成果還元の方法について議論したいと考えている。先方との手続きから始まって進行に関する具体的なノウ・ハウを聞けば、誰にでもできそうだと思ってもらえるに違いない。現地に後継者を探すメリットもあるだろう。
  • 松村 秋芳, 藤野 健
    p. 5
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
     直立二足歩行は、ヒトとほかの哺乳動物を隔てる重要な特徴である。二足歩行能の獲得過程の究明は、ヒトの進化を考える上で重要な課題のひとつと考えられる。これまでの研究ではブラキエーション仮説、木登り仮説などが提唱されてきたが、二足歩行が獲得された要因について実際のところは明らかになっていない。
     多くの動物種では行動のレパートリーとして二足行動をもつ。霊長類では祖先から引き継いだこの性質が、樹上適応放散を機にブラキエーションや木登りと複合することになった。したがって、一般哺乳類の二足行動について知ることは、霊長類の運動適応の特徴を明らかにすることにもつながる。レッサーパンダ(Ailurus fulgens)は、日常行動において自発的にしばしば二足起立姿勢をとるので、二足性の進化を探るためのモデル動物として適当である。その起立行動はこの動物がしばしば行なう木登りやブラキエーション様の行動と関連しており、類人猿段階の前適応と類似した行動様式形成のメカニズムが働いていると想定すると理解しやすい。
     しかし、レッサーパンダは通常二足起立姿勢をとるのみで歩行は行なわない。一方テナガザルやチンパンジーなどの樹上性の類人猿は地上の二足歩行ができる。これらの類人猿とレッサーパンダの樹上行動の大きな違いは、左右の腕を交替させて枝から枝へブラキエーションによる移動を行なうか否かである。二足歩行能の起源と進化を探る鍵はここに隠されている可能性がある。ブラキエーションによる移動運動では、上肢ばかりでなく下肢や体幹をコントロールする筋の機能や神経回路、さらに筋の機能と運動の様式に対応した骨格の形態が存在することが予測される。
     今回の自由集会では、われわれが上記のような考えに至った過程を概説するとともに、先行研究やこれまでに行なってきた実験結果について再考する。さらに、ここに示した考え方に妥当性があるか、今後どのように検証していくかについて議論したい。
    < 演者>
    藤野健(東京都老人総合研究所)、熊倉博雄(大阪大学大学院人間科学研究科)、中野良彦(大阪大学大学院人間科学研究科)、松村秋芳(防衛医科大学校生物学科)
    < コメンテーター>
    平崎鋭矢(大阪大学大学院人間科学研究科)
  • 伊谷 原一
    p. 6
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    ひと科3属(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)の大型類人猿は、野生下において絶滅危惧種であり、国内飼育環境下においても個体数減少・少子高齢化という問題を抱えている。一方で、大型類人猿を対象とした研究は増加傾向にあり、非常に高い研究需要が存在している。こうした現状をうけて、本年8月より京都大学霊長類福祉長寿研究部門が国内初のチンパンジー・サンクチュアリとして熊本県に設立されることになった。これは、従来のサンクチュアリにとどまらず、チンパンジーの飼育方法、エンリッチメントなどの福祉、長寿、さらには野生保全に関する研究、教育を進めるとともに、日本の大型類人猿の展望を考えるという包括的な研究講座である。とくに、老齢チンパンジーにおける生活の質の向上、多様な年齢層からなる複雄複雌集団の飼育下での創設とそれにもとづく隔離飼育(単独飼育と人工保育)の廃止などを実施し、国内飼育個体群維持を進める。野生復帰事業へも飼育技術の知見などを提供する。一方、大型類人猿の研究基盤整備、情報整備として、大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)というプロジェクトが文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)内の情報プロジェクトサブ機関として進められてきた。ここでは大型類人猿由来情報(飼育個体・家系・施設情報など)や、大型類人猿研究者情報の整備、飼育施設・研究者とのネットワーク整備が実施されてきた。このネットワークの利用と遺体科学分野との連携によって、非侵襲的研究資料(主に死体由来資料)の配付がおこなわれてきた。現在も第二期NBRPへ情報プロジェクトサブ機関として参加し、京都大学霊長類研究所と東京大学大学院農学生命科学研究科を機関として事業運営がされている。本集会では、京都大学霊長類福祉長寿研究部門、NBRP、GAIN、遺体科学の概要について話題提供をおこなうことで、国内における大型類人猿の飼育・福祉・研究利用の現状について報告すると同時にその展望について検討したい。
  • 中村 美知夫, 田代 靖子, 伊藤 詞子
    p. 7
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
     霊長類が「社会的」な存在であることは、霊長類の研究をおこなうすべての人が認めるところであろう。日本霊長類学の初期においては、社会の理解を目指していたと言っても過言ではない。しかしながら、その後の社会生物学の勃興と発展の中で、霊長類社会の限られた側面しか語られなくなってしまった。言い換えれば、社会の多様で複雑な側面はある意味で置き去りにされてきたと言えるのではなかろうか。
     たとえば、個体に分解してしまっては理解しきれない社会をどう捉えるべきか、という初期日本霊長類学が提示した問題は、いまだにきちんと理解されないまま取り残されてしまっている。数十年遅れて、一部の欧米の研究者がこのような事象に関心を寄せ始めているが、近年の日本霊長類学においてはそうした問題への関心は薄い。
     社会学や哲学、文化人類学など、人間社会については、さまざまなアイディアとアプローチの下で研究がなされてきた。そして、どのように社会を捉えるかによって、対象の理解、現象の解釈はより深く豊かになったように思われる。しかし、霊長類の社会現象の場合は、アプリオリに生物学的な還元主義を適用せねばならないことになってしまってはいないだろうか。生物学的なアプローチが有効かつ必要であるのは間違いないが、ヒト以外の霊長類の生活世界についての深く豊かな理解を目指すために、霊長類学は様々なアプローチを模索すべき時期に来ているのかもしれない。
     本自由集会では、社会の捉え方の違いによって、具体的にどのように対象の理解が可能になるのかを、それぞれの視点から話題提供をしていただく。もう一度霊長類の「社会」についての幅広い議論が展開できるようになればと考えている。

    <話題提供者・コメンテーター>
    西江仁徳(京都大学大学院理学研究科)、北村光二(岡山大学文学部)、中川尚史(京都大学大学院理学研究科)、伊藤詞子(京都大学大学院人間・環境学研究科)、田代靖子(林原生物化学研究所・類人猿研究センター)、中村美知夫(京都大学大学院理学研究科)
第23回日本霊長類学会大会公開シンポジウム
  • 黒田 末壽
    p. 8
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    人類にとって戦争と暴力は解決しがたい大きな問題である。半世紀にわたって戦争を避けることに成功してきた日本では、犯罪の凶悪化、虐待による子殺しやいじめという陰湿な暴力が子どもたちを脅かしている。ヒト以外の霊長類にも子殺しや集団間の殺し合いが発生し、暴力は霊長類の社会やその進化にとって必要悪と考える仮説が有力視されている。しかし一方で、近年の霊長類研究は、闘争者同士が積極的に仲直りする行動や仲直りを仲介する行動が普遍的に見られること、また、チンパンジーとボノボのように近縁種でありながら、片方が子殺しや集団間での殺し合いをするにもかかわらず、他方は穏和で集団同士も平和な関係を築く例があることを明らかにしている。本シンポジウムの目的は、これらの研究成果を通じて、霊長類が攻撃行動を抑制しそのエスカレートを防ぐ多様な機構を進化させてきたこと、人類にもその機構と能力が根づいていることを広く明らかにし、その今日的意義を現代思想・社会人類学・教育心理学の研究者および一般参加者と共に深めることである。
    司会    細馬宏通(滋賀県立大学)
    14:00~14:05
    はじめに                黒田末壽(滋賀県立大学)
    14:05~14:35
    人間の暴力性と進化
    西谷修(東京外国語大学)
    14:35~15:05

    類人猿の社会に見る攻撃性とその抑制の進化
    古市剛史(明治学院大学)
    15:05~15:25
    ヒトの母親は暴力的か-子育ての比較発達
    竹下秀子(滋賀県立大学)
    15:25~15:50
    人類社会形成論と暴力
    黒田末壽(滋賀県立大学)
    15:50~16:30
    総合討論
    討論者:伊藤哲司(茨城大学)、曽我 亨(弘前大学)、西田正規
人類学関連学会協議会合同シンポジウム
  • 山極 寿一, 馬場 悠男
    p. 9
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    人間の定義をめぐる議論は長い歴史がある。しかし、20世紀は人文科学と自然科学の間でそれぞれ別個に議論されてきた感がある。「人間」が精神的な態度によって特徴づけられる人文科学の用語だとすれば、「ヒト」は生物としてのシステムやメカニズムを追求しようとする自然科学の用語である。近年、この二つの分野が乖離しては解決できない問題が山積しつつある。人間の社会に頻発する暴力性や性的なトラブルをどう考えたらよいのか。クローンをつくることは許されるのか。脳死は死の定義として採用できるのか。これらの問いは「人間=ヒト」という視点からの解答を迫っている。この時代に、人類学を研究する学者たちが学問の領域を超えて集い、「人間」と「ヒト」との一致点を見いだすことは極めて重要なことと思われる。人類学関連学会協議会に参加している各学会からパネリストを募り、それぞれの学問領域についての「人間=ヒト」の考えを述べ合い、検討したい。
    司会    山極寿一(日本霊長類学会)
    10:00~10:10
    はじめに   馬場悠男(人類学関連学会協議会)

    10:10~10:40
    ゲノム科学における「ヒト」の位置
                      太田 博樹(東京大学・日本人類学会)

    10:40~11:10
    霊長類学にとっての人間=ヒト問題-野生チンパンジー研究からの視点
                       山越 言(京都大学・日本霊長類学会)
     
    11:10~11:40
    霊長類学と人類学:稀少資源をめぐる競合ドグマをめぐって
                       曽我 亨(弘前大学・日本文化人類学会)
                   
    11:40~12:30
    総合討論         

    討論者:河合雅雄、日高敏隆、馬場悠男
口頭発表
  • 井上 英治, 井上-村山 美穂, ビジラント リンダ, 竹中 修, 西田 利貞
    セッションID: A-01
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類の社会を考える上で、群れの遺伝的構成を明らかにすることは重要である。霊長類の多くは母系社会であるのに対し、チンパンジーは父系社会である。本研究では、野生チンパンジーを対象に遺伝解析を行ない、雄の繁殖成功の偏りと雌の移籍が集団の遺伝的構成に与えている影響を分析した。タンザニア、マハレ山塊国立公園のM集団54頭の非侵襲的試料を用いて、マイクロサテライト8領域の遺伝子型を決定した。それをもとに、1999年から2005年に生まれた11頭の子供の父子判定を行なった。また、血縁解析ソフトを用い、2003年8月時点で集団に在籍しかつ遺伝子型を決定した50頭(9歳以上雄:12頭、9歳以上雌:19頭、子供:19頭)の血縁度推定を行なった。受胎時期に第1位であった雄は父親が決定できた10頭のうち5頭の父親であり、他に2頭以上の子供を残した雄はいなかった。また、雄間の平均血縁度(R=0.031)は雌間(R=-0.022)より有意に高く、R > 0.25のペアを血縁者とすると、雄間の血縁者の割合(17%)は雌間(8%)よりも高かった。雄の血縁者の割合は雌に比べ個体差が大きく、血縁者のいない個体もいた。雄を年齢に応じて3世代に区切ると、同世代間の血縁者の割合(16%)は異世代間(17%)と差が見られなかった。父子判定から予想される父系兄弟の割合もほぼ同じ(16%)で、この多くは同じ第1位雄の子供であった。チンパンジー社会では、父系の影響で雄間の血縁者の割合が雌間に比べ高く、雄の繁殖成功の偏りのために、雄の血縁者の割合に個体差が生じていて、血縁度の高い雄のまとまりが存在した。母系社会における雌では、血縁者の割合に大きな個体差がないと予想されるので、父系と母系で血縁構造に差があると考えられる。
  • 張 鵬, 渡辺 邦夫
    セッションID: A-02
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    One-male unit (OMU) is the basic social unit in multi-level societies of the Sichuan snub-nosed monkeys (Rhinopithecus roxellana). From October, 2001 to December, 2005, we studied dominance relationships between OMUs in a free ranging group in the Qinling Mountains, central China. The group was comprised of 6 to 8 OMUs that were cohesively associated. We analyzed a total of 2366 replacement interactions among these OMUs during eight different study periods. The results suggested a linear dominance relationship among the units in each study period. We suggest three factors that may influence dominance relationships among units: long-term association, competition for food trees and influence of provisioning. The results showed time positive ranks in the group, which is units associating for longer time in the group tend to have higher dominance rank. In addition, we reported for the first time that two cases of 'merger of OMUs', in which one resident male replaced the other, and merged two units into one. We discussed the dynamics of merger of OMUs.
  • MACINTOSH Andrew J.
    セッションID: A-03
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    Inter-group encounters provide a medium whereby inferences regarding the nature of resource competition between conspecific primate groups can be made. Where encounters are aggressive, they may reflect: 1) female competition for access to food; 2) male competition for mating access; 3) indirect male mating competition through defence of food; and 4) male threat of infanticide as a coercive means. These are not mutually exclusive. This study tested whether social vigilance may indicate competitive regime. Individual variations may contextually reflect gender-based competitive strategies. Vigilance was analyzed in relation to the above hypotheses. Encounters did have an impact on vigilance as expected. I argue that vigilance in C. vellerosus is more a function of male behaviour and less related to female feeding competition.
  • 相馬 貴代, 小山直樹
    セッションID: A-04
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
     メス優位のワオキツネザルの社会では、群れ内メスが一定頭数を超えると、Targetting aggressionと呼ばれる、特定個体に対する執拗な攻撃行動が起こり、追い出しにいたることが知られている。何家系を含む群れの場合、優位家系グループから劣位家系グループの個体への攻撃がおこり、結果として群れが分裂することが多い。
     2004年8月から2005年11月、2006年4月、2006年9月から11月の間に、すべてのメスが1頭のメスの子孫からなる観察群(オトナメス個体数およそ10頭、総個体数およそ22頭)を観察した。この群れにおける「追い出し」から「追い出され個体の群れ復帰」までの経過を報告する。
     _丸1_アルファメスであったME89(メス全員の母および祖母)の消失、_丸2_ME89の娘ME8998のアルファメス化と姪グループ(ME8998の死亡した姉ME8994の娘・ME899499とその妹2頭)の追い出し、_丸3_追い出された姪グループのノマド(放浪)群化、_丸4_姪グループの群れ再加入とME8998の追い出し、_丸5_追い出されたME8998グループのノマド群化、_丸6_姪グループの長女ME899499のアルファメス化、というプロセスが観察された。新しくアルファメスになったME89の娘ME8998は、自身の妹たちとグループを作り、姪グループを追い出した。1年半後、姪グループが群れに復帰し、かつて彼女達に最も攻撃を加えた、アルファメスME8998とその妹を反対に追い出した。また、姪グループに攻撃的であったME8998グループのメスはすべて劣位となった。
     単一家系からなる群れの場合、 共通の祖先メス個体の消失後にアルファメスとなった個体が、血縁度が低い姪グループを選択的に追い出すことは妥当なのかもしれない。また、自分を攻撃した個体を追い出したり、攻撃を加えたりすることは、ワオキツネザルにおける「復讐」という意識とそれを確実にする記憶の存在を示唆することにならないだろうか。
  • 松平 一成, 石田 貴文
    セッションID: A-05
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)演者は、テナガザルのペアにおいてグルーミングの方向性(オスからメスへ、またはメスからオスへ)が多様であることを観察し、前回大会で、ペア形成の要因についての配偶者防衛仮説に疑問を呈し、オスは交尾のためにグルーミングをしている可能性があると報告した。今回はそれらの仮説の再検討を行なうことを目的に、更に複数の群れについてペアを観察し、前回までに観察したペアに加えて分析を行なった。
    (方法)動物園で飼育されている、シロテテナガザル(4ペア)、ミューラーテナガザル(オス)とアジルテナガザル(メス)(1ペア)、ボウシテナガザル(1ペア)、シアマン(1ペア)の観察を行った。各ペアについて10日間、約60時間における、ペアの間で行われた全てのグルーミングの時間と方向を記録した。
    (結果)群れ内に若い(4歳未満の)子どもが存在するペアではグルーミングがオスからメスへより多く行なわれ、存在しないペアではメスからオスへより多く行なわれる傾向があり、3ペアにおいて有意な違い(p < 0.05)があった。グルーミングの総時間は、オスでは群れによらず短い傾向が見られ、メスでは子どもの在、不在に対応して短、長の傾向が見られた。
    (考察)若い子どもが存在する群れでは、メスは子どもの養育に多くの時間とエネルギーを費やすため、メスからオスへのグルーミングが短くなった可能性がある。一方、飼育下のオスのテナガザルにはメスを巡る競争の相手となり得る他のオスがいないため、オスはメスを防衛する必要がなく、オスからメスへのグルーミング時間が短くなったことが考えられる。今後はメスから子どもへの投資量、オスへの投資量などを調査して検証を続ける必要がある。
    (謝辞)本研究は恩賜上野動物園、横浜市立金沢動物園、浜松市動物園、日本モンキーセンター、Dusit動物園のご厚意により実施することができました。ここに感謝の意を表します。
  • 神田 恵, 室山 泰之, 杉浦 秀樹
    セッションID: A-06
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
     グルーミングは霊長類において一般に広く見られる個体間交渉のひとつであり、集団内の他個体との社会関係を形成、または維持する機能を持つ。これまでのグルーミング交渉に関する研究の多くでは、個体は交渉相手を選択しており、個体間で交わされたグルーミングの分布パターンに選択の結果が反映されている、という前提で行われていた。しかし、この前提の妥当性は十分に示されてはいない。本研究では、ニホンザル飼育集団において、交渉相手が選択可能な場面、選択の余地がない場面でのグルーミングの分布を比較し、交渉相手の選択に差があるのかを調べた。分析では、個体が交渉相手の属性を選べるのは、複数の近接個体がいて、それぞれの個体の属性が異なる場合とし、“観察個体がグルーミング交渉相手を選択した”という場面を次のように定義した。グルーミングが始まったときに複数のオトナメスがいて、それらを2つの属性に分類できるとき(例:血縁個体が1個体、非血縁個体が2個体いるとき)であるとした。交渉相手からグルーミングの催促を受けた後や個体間で攻撃交渉が生じた後のグルーミングは、交渉相手を選択した場面とはみなさなかった。
     全体的には、血縁個体、高順位個体、親和的な個体へのグルーミングの指向性ははっきりと見られなかったにもかかわらず、交渉相手を選択可能な場面では、これらの個体に対する指向性が明確に現れた。特に、集団内で上位の順位(上位6個体/全14個体)のグルーマーが交渉相手を選択する場面では、有意に高い割合で望ましい交渉相手を選んでいた。
     これまでの先行研究では、交渉相手の選択肢が非常に狭く、望ましい相手と交渉がもてなくなっている可能性がある。しかし、選択が可能な場面では、個体の交渉相手の選択に際しての意思決定の結果がより明確に示されていること、またその傾向はグルーマーの属性によって異なるということが、本研究により明らかになった。
  • 山田 一憲, 志澤 康弘, 中道 正之
    セッションID: A-07
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】哺乳類や鳥類では、親からの養育行動を求めて、子が音声を発することがある。この音声の機能に関して、2つの仮説が考えられている。子は音声信号の発信を操作することによって、必要以上の養育行動を親に要求しているとする「信号の操作的利用仮説」と、本当に養育を必要としている子のみが音声信号の発信を行うことにより、音声信号の信憑性を維持しているとする「正直な信号利用仮説」である。ニホンザルでは子が離乳期を迎えることになると、授乳を求める子ザルに対して、母ザルが頻繁に拒否行動を示す。本研究では、授乳をめぐる母子相互交渉に注目して、乳首接触を試みる子ザルが鳴き声(gecking call)を発する状況と、その鳴き声に対する母ザルの反応性を調べた。
    【方法】勝山ニホンザル集団において、離乳期に当たる1歳齢の子ザルと母ザル15組を対象とし、2003年4月から9月までの76日間、総計225時間の行動観察を行った。
    【結果と考察】子ザルが鳴き声(gecking call)を伴って試みた乳首接触は成功する確率が高く、成功した場合はその乳首接触がより長い時間継続する傾向にあった。乳首接触が成功するかどうかは、その時の母ザルの活動内容と関連することが知られている。子ザルが鳴き声を伴って乳首接触を試みた割合は、母ザルの活動内容に関わらず、一定の低い値を示した。鳴き声を伴った乳首接触を頻繁に試みる子ザルは、必ずしも乳首に接触している時間が長いわけではなく、乳首接触の成功率も高いわけではなかった。以上の結果から、鳴き声を伴った乳首接触を子ザルが過剰に試みることによって、子ザルが母ザルを「操作」し、母ザルから必要以上の養育行動を引き出そうとしている可能性は低いと考えられた。むしろ、母ザルと子ザルの間では鳴き声を伴って試みられた乳首接触が、「正直な」信号として利用されている可能性が示唆された。
  • 大西 賢治, 中道 正之
    セッションID: A-08
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    サル類を対象とした母子関係の研究において、母子が離れた場面はほとんど注目されてこなかった。しかし、母ザルが自分から離れたところにいる子ザルに対してどのように関わるのかは、母子関係を考える上で重要である。本研究では、母ザルが子ザルを見る行動であるマターナル・モニタリング行動(Maternal visual monitoring of the infant)に注目する。子ザルの週齢、母子間の距離、母子それぞれが何をしているのかが、マターナル・モニタリング行動の生起頻度にどのように影響しているのかを検討した。勝山ニホンザル集団において、0歳齢の子ザルとその母ザル16組を対象として研究を行った。観察期間は2005年7-10月と2006年5-10月までの間の166日間であった。子ザルの7-8週齢から19-20週齢までを観察し、観察期間を2週齢ごとに7期間に分けた。1セッション20分間の連続観察を、子ザルの週齢区分ごとに2時間、各母子ペアにつき14時間行った。子ザルが手の届く範囲にいるときのマターナル・モニタリング行動の生起頻度は、子ザルの週齢によって変化しなかった。しかし、子ザルが手の届く範囲よりも離れたところにいるときには、マターナル・モニタリング行動の生起頻度は子ザルの週齢が上がるにつれて減少した。母ザルは、子ザルが移動しているときには他の行動を行っているときよりも頻繁にマターナル・モニタリング行動を行っていた。マターナル・モニタリング行動の生起頻度は、「毛づくろい」と「移動・採食」を行っているときに低下し、「休息」と「スクラッチ」を行っているときに上昇した。母ザルは、子ザルがより危険であると考えられる状況において子ザルをよく見ていたが、自分がマターナル・モニタリング行動を行うことのできない行動を行っているときには子ザルに注意を向けていなかった。
  • 山本 真也, 田中 正之
    セッションID: A-09
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    チンパンジー2個体が役割を交代しながら相互利他的な関係を築くかどうかを「利他的コイン投入課題」を用いて実験的に調べた。この課題では、自動販売機にコインを投入すると、透明なパネルを挟んで隣のブースにいる相手に食物報酬が出る仕組みになっていた。コインの供給方法を操作して、2つの条件を設定した。1)交互役割交代条件:片方の個体にコインを1枚供給し、コインが投入されるともう一方の個体にコインを1枚供給した。この条件では、コインを投入する役割が1枚ずつ交代することになる。2)役割交代自由条件:2個体にコインを1枚ずつ同時に供給した。コインが投入されると、投入した個体にその都度コインを1枚補充した。この条件では、常に2個体が1枚ずつコインを持つことになり、2個体が自由に役割交代できた。群れで生活する飼育下のチンパンジーおとなのペア3組を用いた結果、すべての組において、交互役割交代条件では利他的なコイン投入が交互に継続したが、役割交代自由条件ではコイン投入は継続しなかった。チンパンジーにとって、2個体で自発的に利他行動の役割を交代して相互利他的な関係を維持させることは難しいといえる。交互役割交代条件では2個体間でコイン投入枚数に差はありえないが、役割交代自由条件では差が生じる。そこで、役割交代自由条件での相互交渉を投入枚数に応じて分析した。その結果、相手より多くのコインを投入していた個体が、あまりコインを投入しない相手に手を伸ばす「誘いかけ」行動がみられた。この行動のあとには、相手個体のコイン投入行動が一時的に回復した。また、より多くコインを投入していた個体が、実験後に相手を攻撃する「罰」行動もみられた。これらの結果は、チンパンジーが相手の「ただ乗り」行動を検出し、抑止するために誘いかけ行動や罰行動をとる可能性を示している。利他行動が、相手からの圧力により引き起こされることが示唆された。
  • 小倉 匡俊, 上野 吉一
    セッションID: A-10
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    実験動物の飼育形態として一般的な個別ケージでの飼育では、感覚環境や社会環境の厳しい制限を受ける。これらの環境への要求を満たすようなエンリッチメントを個別ケージ飼育のサルに対して施すことは、動物福祉の観点から重要な意義を持つ。昨年度大会では個別ケージ飼育ニホンザルを対象に、感覚性強化のパラダイムにより動画を強化刺激として反応が形成されることを報告した。本研究では動画の種類による選択率の違いを調べ、ニホンザルの持つ環境に対する要求を明らかにすることを目的とした。対象としたのは人工哺育経験のある個別ケージ飼育ニホンザル1個体で、動画の種類として6種のカテゴリー(ニホンザル・アカゲザル・チンパンジー・ヒト・アニメーション・風景)を用いた。ケージに設置したタッチパネル上に動画の内容に対応した6つの選択キーを提示し、選択キーに触れると3秒間動画が提示された。3秒以上画面に手を触れなければ、選択画面に戻った。食物報酬は使用しなかった。全40セッションの実験をおこない、各カテゴリーに対する選択反応と再生時間を記録した。20セッション経過時点で全ての刺激を新しいものに入れ替えた。最初の10セッションではヒトとアニメーションの動画に高い選択率を示した。続く10セッションではアニメーションの選択率が減少し、ヒトの動画の選択率は高いままであった。刺激を入れ替えると、全体の再生時間が増加した。とくにヒトの動画に対する選択率が高まった。この結果は、被験体のヒトの動画に対する選好性を示唆している。人工哺育や日常的にヒトと接している経験の影響が示唆された。ヒトの動画では、既知のヒトが見知らぬ衣服を着ている動画や未知のヒトの動画をより高い割合で選択した。本研究は1個体のみの結果であるため、個体差の影響を否定できない。今後は被験体の数を増やして結果の検証をおこないたい。
  • 齋藤 亜矢, 林 美里, 竹下 秀子
    セッションID: A-11
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    チンパンジーの描画行動をヒト幼児の発達過程と比較し、描く心の起源について考察した。過去の類人猿の描画研究および対象としたチンパンジーの自由描画では、明らかな表象を描いた例はない。表象を描く能力の基盤となる要素を明らかにするため、自由描画に加えて、新たな2つの研究をおこなった。まず描画模倣課題では、検査者が見本として描く図形に対する描画行動を調べた。初回1~2歳半のヒト幼児26名とチンパンジー6個体を対象に、自由描画と比べて見本(横線、縦線、円、十字、正方形)提示後の描画の位置と線の変化を解析した。ヒトでは、1歳前半になぐりがきの位置が見本に重なるようになり、1歳後半で描く線に変化がみられ、2歳以降に横線の模倣ができるようになった。それぞれ見本に注意を向ける、動作を模倣する、形を描く目的を模倣するという認知機能の発達が示唆される。チンパンジーは形を模倣することはなかったが、無秩序ななぐりがきだけではなく、なぐりがきの位置が見本に重なる行動や、線を調整して見本をなぞる行動がみられた。次に描画補完課題では、ヒト幼児で表象的な描画が出現しやすい顔刺激に対する描画行動を調べた。ヒトは顔認知に特異性があり、表象描画の発達初期にも顔が多く描かれる。1~3歳のヒト幼児のべ37名とチンパンジー6個体を対象に、目などの部位を一部取り除いた顔の線画を提示した。ヒトでは1歳後半に顔内部への描きこみ、2歳前半に描かれている顔部位への重ねがき、2歳半以降で顔の描かれていない部位への補完が増えた。チンパンジーは描かれている部位や線への重ねがきがみられたが、ない部位を補完することはなかった。ヒトは手の調整が不完全なうちから、描かれていない部位を補完しようとするのに対し、チンパンジーは線を調整できてもすでにある線に集中し、ない部位を補完して描くのが難しいことを示している。
  • 酒井 朋子, 三上 章允, 西村 剛, 豊田 浩士, 田中 正之, 友永 雅己, 松沢 哲郎, 鈴木 樹里, 加藤 朗野, 松林 清明, 後 ...
    セッションID: A-12
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    【目的】ヒトの前頭前野は計画、作業記憶、時間・順序情報処理、言語、注意、社会性といった高次の行動の情報処理を担う脳領域として注目されている。さらに、この領域の発達過程は他の脳領域と比較して特にゆっくりとしたペースで行われることが明らかとなっている。例えば、シナプスの数は3~4歳でピークに達し、その後青年期後期に至るまで徐々に減少する。また、髄鞘化は青年期まで続くことが報告されている。そこで、本研究ではチンパンジーの脳発達を検討する一連の研究の中で、チンパンジーの前頭前野の灰白質および白質の発達過程を解析した。
    【方法】霊長類研究所で2000年に出生した3頭と2003年に出生した1頭の、計4頭のチンパンジーを用いた。脳解剖画像はGE製Profile 0.2 Tを用い、3Dグラジエントエコー法によりT1強調画像を生後2ヶ月~7歳まで縦断的に取得した。MRI 画像処理はMRIcro(Wellcome Department of Cognitive Neurology, London, UK)およびFSL (Analysis Group, FMRIB, Oxford, UK)を用いた。画像解析では、中心溝の前方の脳領域でかつシルビウス裂の上方の領域を前頭葉、脳梁膝の前方領域を前頭前野と区分し、灰白質、白質の相対容積を各個体の年齢ごとに解析した。
    【結果と考察】(1) 灰白質と白質の相対容積を前頭葉および前頭前野で縦断的に比較すると、前頭前野の灰白質の相対容積の比率が前頭葉よりも高いことが示された。(2) 最新のデータである生後6歳6ヶ月のチンパンジーと成体のチンパンジーの前頭前野における白質の相対容積を比較すると、前者では16%、後者では43%であり、生後6歳6ヶ月ではまだ成体のレベルに達していないことが明らかとなった。(3) チンパンジーの前頭前野はゆっくりと発達することが示され、ヒトの研究における結果と一致した。
  • 光永 総子, 林 隆志, Eberle Richard
    セッションID: A-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    【背景・目的】サルBウイルス(BV)はヒト単純ヘルペスウイルス(HSV)と同じヘルペスウイルスに属し、マカクザルでのBV感染はヒトでのHSV感染と同様に、普段は潜伏感染している。一方、ヒトがBVに感染した場合致死となることがあるために、マカクザル飼養・実験施設ではBV感染動態の把握・管理が課題となっている。潜伏感染するヘルペスウイルスの再活性化の要因として、ヒトのヘルペスウイルス感染研究でストレスが挙げられている。マカクザルBV感染でもストレスや繁殖期との関連が示唆されているが明確にはなっていない。我々は、潜伏感染ヘルペスウイルスが再活性化すると、そのウイルスに対する抗体価が上昇する点に着目し、BV陽性の飼育マカクザルの抗BV抗体価の変動(上昇)を指標に、BV再活性化のモニタリングを試みた。
    【材料・方法】BVに近縁のHVP2 (Herpesvirus papio 2)を代替抗原とした改良HVP2-ELISA法を確立し、本研究に利用した。今回、以下のBV陽性マカクザルを対象に、血清/血漿中の抗BV抗体価の変動(上昇)を調べた。1) 空輸されたカニクイザル、2)グループケージから個別ケージに移されたアカゲザル、3) 放飼場(繁殖コロニー)のニホンザル。
    【結果・考察】空輸したカニクイザル2頭の内1頭、ケージ移動したアカゲザル4頭の内1頭、および繁殖期間中の放飼場ニホンザルオス3頭の内2頭で抗BV抗体価上昇が観察された。今回の結果は、輸送やケージ移動という日常的飼育管理処置がサルにとってストレスとなり、それがBV再活性化を引き起こす可能性があることを示している。また、繁殖コロニーのニホンザルでは、特にオスにおいて、繁殖期間中にBVが再活性化されることがあることを示唆している。(Mitsunaga et al., 2007. Comp. Med. 57: 37-41)。
  • 寺尾 惠治
    セッションID: A-14
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     ハンセン病は未だに発展途上国では重要な感染症であり、新規の治療法及びワクチンの開発が待望されている。一方で、これまでのところハンセン病の再現性の高い動物モデルは確立されておらず、ワクチンの有効性評価の支障となっている。今回、カニクイザルを用いたハンセン病の感染・発症モデルを開発することを目的として、6頭の幼若カニクイザルに異なる感染経路で「らい菌」を接種した。接種後二年間にわたり、末梢血主要リンパ球サブセットレベルと3種のらい菌由来ペプチド(MMP-II、LpK、FAP)で誘導されるリンパ球幼若化反応を調査した。供試した6頭のカニクイザルのうち手根部に接種した一頭では、「らい菌」接種後3種のペプチドすべてに対するリンパ球幼若化反応が2年間にわたり持続したが、ペプチドにより反応性が異なっていた。FAPおよびMMP-IIに対する幼若化反応は接種後5ヶ月前後から出現したが、FAPに対する反応性が二年間持続したのに対し、MMP-IIに対する反応性は一年後に低下した。MMP-IIに対する反応性が低下すると同時にLpKに対する幼若化反応が急激に増加した。この個体では感染直後から休止期記憶CD4陽性T細胞と考えられるCD29high細胞レベルが増加し、二年間高レベルを維持したことから、ペプチドで誘導される幼若化反応を担う細胞集団である可能性が示唆された。さらに、調査した6頭のうち、本例のみで低レベルではあるが「らい菌」に対する抗体が接種後二年にわたり検出されることから、「らい菌」が持続感染している可能性が高いと判断している。
     本研究計画は医薬基盤研および国立感染研の動物実験委員会により科学的観点ならびに動物福祉・倫理の観点から問題がないとして承認されたものである。
  • 林 基治, 山下 晶子, 泰羅 雅登, Fuchs Eberhard
    セッションID: A-15
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    (目的)BDNFとその受容体TrkBは、霊長類の脳の発達と老化に重要な脳内機能分子である(Hayashi M. 1997, 2002)。ツパイは進化的に霊長類に近縁の哺乳類で、寿命も約7年とラットの約3年よりはるかに長いことが知られている。従来、ツパイ脳におけるBDNFとTrkBの免疫陽性構造についての記載はなく、またその加齢変化も報告されていない。今回比較解剖学的観点から、ツパイ海馬体におけるBDNFとTrkBの免疫陽性構造とその加齢変化を、免疫組織化学法で調べた。
    (方法)オスのコモンツパイ4頭(1年4ヶ月の成熟期2例、6年6ヶ月と7年5ヶ月の老齢期)の4% パラホルムアルデヒドで固定した脳(ドイツ霊長類センターから供与)を使用した。 海馬体周辺について40μm切片を作製し、BDNFとTrkBに対する抗体(Santa Cruz)を用いて免疫陽性構造を調べた。
    (結果)成熟期の海馬体におけるTrkB免疫陽性活性は、歯状回の顆粒細胞やCA1, CA2, CA3および海馬台の錐体細胞に観察された。強い免疫陽性活性は、細胞体および樹状突起に認められた。一方、顆粒細胞や錐体細胞におけるBDNF免疫陽性活性は、細胞体に少なく、樹状突起と軸索に多かった。老齢期の海馬体では、顆粒細胞や錐体細胞のTrkBとBDNFの免疫陽性活性は、成熟期に比較して顕著に減少した。
    (考察)従来、我々は老齢期ニホンザル海馬体のBDNF免疫陽性活性が、顕著に減少することを報告している(Hayashi M et al., 2001)。また老齢ラット海馬体においてもBDNFとTrkBの減少が観察されている(Hattiangady B et al., 2005; Shihol M et al. 2005)。今回、ツパイ海馬体においても、BDNFとTrkB免疫陽性活性が加齢に伴い顕著に減少することを観察したので、脳老化に供なう海馬体におけるBDNFとTrkBの減少は、哺乳類に共通した現象と思われる。
  • 平井 啓久, 平井 百合子, 森本 真弓, 兼子 明久, 釜中 慶朗
    セッションID: A-16
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
     血液キメラはマーモセット亜科のマーモセットとタマリンのグループだけに特異的に起る現象として知られている。その機序は、母体内の胎盤吻合によって胎児間で血液交換がおこり、出産後もお互いの血液を維持し続ける、というものである。この現象が及ぼす生物学的影響について現在解析中であるが、今回は一連の研究のなかではじめて観察されたヨザルの血液キメラについて報告する。
     材料・方法:現在京都大学霊長類研究所に飼育されているヨザル16頭のうち1頭の白血球の染色体を解析したところ、2つの異なるゲノム(染色体構成が異なる2型)が混ざっているのではないかという疑問がもたれた。そこで血液細胞と皮膚細胞を培養し、それぞれの染色体を解析した。さらにゲノムの相違を明確にするために、染色体顕微切断法を用いて作製した標識となる染色体の彩色プローブとヒト染色体由来のプローブを用いてFISH法で確認した。
     結果:血液細胞の観察においては、第1型(41A)と第2型(41B)の核型がそれぞれ87個と85個の細胞に観察された。一方皮膚の核型は41A型のみであった。FISH法の解析から41B型は染色体相互転座をヘテロの状態でもつことが明らかになった。
     考察:血液細胞が約50%ずつの2タイプのゲノムからなり、皮膚細胞が1タイプのゲノムだけからなるというデータは、コモンマーモセットやワタボウシタマリンで観察されたものと非常によく符合する。したがって、このヨザル個体は双児間で起った血液キメラをもつと推定された。記録には双児出産の記載はなく、現在双児の一方しか生存していないので状況証拠のみであるが、実験データは血液キメラを示唆している。41B細胞は染色体相互転座を起こしているが、両親にその変異は観察されないので、おそらく受精後の初期胚で変異が起ったと思われる。
  • 西田 利貞, 藤本 麻里子, 藤田 志歩, 花村 俊吉, 井上 英治, 伊藤 詞子, 清野 未恵子, 松阪 崇久, 中村 美知夫, 西江 仁 ...
    セッションID: A-17
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    タンザニアのマハレ山塊国立公園では、研究者はチンパンジーの行動観察の過程で気づいた病気の兆候を アドリブ法で記録してきた。風邪、目疣、腹の腫瘍、白癬、甲状腺腫、などがある。最後に観察されたとき病気と診断された個体がその後行方不明になった場合を病死と仮定すると、病気による死亡率は40%を超える。本研究の目的は、チンパンジーの風邪の流行はヒトの風邪がもちこまれることによるという仮説を調べる一環としておこなった。
    [方法] チンパンジーと接触するのは、研究者や旅行者などの外国人と、研究補助員や公園ガイドなどの現地のアフリカ人である。チンパンジーの風邪罹患率に季節性があり、それが住民の罹患率と強く相関すれば、現地の住民によって風邪がもちこまれている可能性が高くなる。もちろん、最終的には病原体を同定しなければ明らかにできないが、研究の第一歩とはなるであろう。チンパンジーについては、7年間の資料を用い、風邪の兆候(くしゃみ、咳、鼻づまり、鼻水垂らし、鼻くそほじり)のいずれか一つを1個体が1カ月間に最低1度示したら、回数、日数とは関係なく1点と数えた。現地人の罹患については、研究補助員と公園関係者が日常的に接する村落にあるクリニックの資料を調べた。
    [結果] マハレのMグループのチンパンジーは、風邪の罹患に関して強い季節性を示した。アウトブレイクは、常に6月から10月の間に起こった。これは乾季の初めから終わりに相当する期間である。一方、現地クリニックの統計では、明確な季節性は認められなかった。
    [考察] 以上のことから、Mグループのチンパンジーの風邪が、現地人の風邪の流行に端を発するという可能性は低くなったと考えられる。本研究は文科省科学研究費基盤研究A(#12375003, #16255007:代表者西田利貞)、と環境省GERF (F061:代表者西田利貞)によっておこなった。
  • ワイス アレクサンダー, 本庄 美穂, ホン キュンウォン, 鵜殿 俊史, 落合 知美, 松沢 哲郎, 平田 聡, 井上-村山 美穂
    セッションID: A-18
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
      Introduction: Assessments of chimpanzees with the Hominoid Personality Questionnaire (HPQ) has revealed the presence of a broad chimpanzee-specific Dominance factor and five factors analogous to those in humans --- Extraversion, Conscientiousness, Agreeableness, Neuroticism, and Openness. These factors were reliable, generalized to naturalistic and laboratory settings, and related to behavior and subjective well-being. In Japan, 80 chimpanzees at Sanwa were assessed using the Yatabe-Guilford Personality Inventory (YG). We wanted to determine whether the HPQ yields similar personality domains in Japanese chimpanzees and whether they were related to the YG domains and subjective well-being.
      Methods: Three raters assessed each of the 80 chimpanzees on the Y-G and HPQ and at least 2 raters assessed 30 additional chimpanzees on the HPQ and a subjective well-being questionnaire.
      Results: Principal components analyses (PCA) revealed 4 YG domains and 6 HPQ domains. YG Extraversion was correlated to HPQ Extraversion, Dominance, Openness, and Agreeableness; YG Neuroticism was negatively correlated to all HPQ domains except Openness; YG Depression was negatively correlated to HPQ Dominance and Extraversion; and YG Dominance was correlated to HPQ Dominance, Extraversion, Conscientiousness, and Agreeableness. As expected, HPQ Dominance, Extraversion, and Neuroticism were correlated to subjective well-being.
      Discussion: The HPQ can be used to compare the personality of Japanese chimpanzees to that of chimpanzees in other countries or related species, including humans.ns and subjective well-being.
  • 井上-村山 美穂, 本庄 美穂, 井上 英治, 早坂 郁夫, 伊藤 愼一, 村山 裕一
    セッションID: A-19
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)マカク属では、攻撃性に種間差がみられる。ヒトではモノアミンオキシダーゼA遺伝子(MAOA)プロモーター領域の反復多型と攻撃性との関連が報告されており、本研究ではマカク属におけるこの領域を解析・比較した。
    (方法)マカク属18種、計354個体を用いて、MAOA多型領域をPCR増幅して型判定し、各種のアレル頻度と、攻撃性の指標として優劣関係の寛容性 (Thierry, 2000)との関連性を解析した。さらに、ニホンザル2集団で、個体の優劣関係と遺伝子型との関連性を解析した。また、オナガザル科の他の10種でも塩基配列を比較した。
    (結果)18bpを反復単位とした4~10回の反復数を持つアレルが確認された。反復領域の前に6bpの挿入/欠失が存在するアレルもあった。バーバリザル10個体では7回反復アレルのみがみられたが、他種では2~5種類の反復数がみられ、種内多型が存在した。反復単位の塩基配列は、マカクで8種類が確認され、同じ反復数のアレルでも、塩基配列に多様性がみられた。アカゲザル等の寛容性の低い(=攻撃性の高い)種は4~7回反復アレルの割合が多い傾向があり、9、10回反復アレルは確認できなかった。ニホンザルでは7、8回反復の2アレルが存在し、低順位オスには7回反復アレルは認められなかった。オナガザル科の他種では4-10回の反復がみられ、反復単位の塩基配列が新たに7種類確認された。
    (考察)マカク属の種間およびニホンザルの種内比較から、攻撃性とアレルとの関連性が示唆された。アカゲザルでプロモーターの転写活性を比較したところ、6、7回反復アレルの転写活性は、8回反復アレルよりも高いと報告されている。今後は、遺伝子型が個体の行動や社会構造に影響するメカニズムの解明を目指し、他種や他のアレルでも転写活性を解析していく必要がある。オナガザル科の他種でも攻撃性の解析指標になると思われる。
  • 長田 直樹, 橋本 雄之, 平田 誠, 田沼 玲子, 亀岡 洋祐, 楠田 潤, 寺尾 恵治, 高橋 一朗
    セッションID: A-20
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    カニクイザルはアカゲザルとならび、医学、薬学、生理学実験など世界でもっとも多くの研究に用いられているサルのひとつである。我々はこれまでにカニクイザル脳、精巣、肝臓、腎臓から10万以上の遺伝子クローンを単離し、約1万クローンについて全長配列を解読してきた。これらの配列情報はヒト遺伝子との対応に基づいて注釈付けられ、カニクイザルcDNAデータベース(QFbase: http://genebank.nibio.go.jp/qfbase/index_j.html)にて公開されている。更に、これらのcDNAクローンおよび配列を利用したDNAマイクロアレイを作製し、各種臓器の遺伝子発現パターンを比較、性能を検討した。また、本年度になりアメリカNIHによるグラントにて行われていたアカゲザルゲノム配列解析チームがその概要配列を発表した。本研究ではそれを受け、アカゲザルとカニクイザルの遺伝子配列をゲノムレベルで比較し、種による塩基配列の違いが実験動物としての外挿性にどれだけ影響を与えるのかについて考察する。近縁種の分岐年代を推定するには、祖先集団での多型を考慮する必要がある。最尤法による推定では、アカゲザルとカニクイザルの種の分化は約110万年前であり、発表されたアカゲザル集団での祖先までの時間よりも新しい。これらの結果は二種が複雑な過程を経て種分化したのではないかという説を示している。
  • 川本 芳, 川本 咲江, 川合 静, 齊藤 梓, 濱田 穣, 毛利 俊雄, 國松 豊, 大澤 秀行, 後藤 俊二, 和 秀雄, 室山 泰之, ...
    セッションID: A-21
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
     目的:和歌山県で野生化したタイワンザルの交雑ならびに周辺への拡散について、遺伝標識を用いた調査の結果を報告する。交雑群の個体構成、遺伝子構成、交雑度の推移を調べ、交雑の進行に関わる要因を検討する。また、ニホンザル生息地への拡散を調査する。  方法:2003年3月-2006年6月の期間に287個体から採血し、3種類のタンパク質遺伝子、2種類の核DNA、およびmtDNAのタイプを分析した。全体を4期に分け、交雑状況の変化を比較した。一方、周辺地域への拡散調査では、南部のニホンザル生息地である日高川町と田辺市で採取した30試料のmtDNAを分析した。
     結果:ニホンザルと判定されたのはオトナオスのみで、周辺地域からの移入個体と予想された。群れ生まれの82-94%(全期平均は87%)は交雑個体であり、交雑が進んでいることが予想できた。常染色体遺伝子のカウントからニホンザルの遺伝子頻度は0.44-0.61(全期平均0.50)と推定され、遺伝子の半分がニホンザル遺伝子に置き換わっていた。常染色体遺伝子では顕著でないが、Y染色体遺伝子では比較した4期でニホンザルタイプの頻度上昇傾向が観察された。拡散調査では、mtDNAに3タイプが区別でき、いずれもニホンザルタイプで拡散の証拠は得られなかった。
     考察:1999年と比べると、交雑群のニホンザル遺伝子頻度は約2倍に増加している。群内で種間の生殖隔離はなく雑種化が進んでいる。交雑度上昇には、外からの遺伝子流動の影響以外に、ニホンザルオスを選択的に再放逐した影響も考えられる。一方、今回調査したニホンザル生息地では拡散の証拠が得られなかった。しかし、世代を重ねた交雑個体が周辺のニホンザル野生群に入り交雑するリスクは高くなっていると予想する。排除事業で交雑群は着実に縮小しているが、完全排除に向けた不断の捕獲と、周辺地域における拡散モニタリングが必要だと考える。
  • 濱田 穣, 毛利 俊雄, 國松 豊, 茶谷 薫, 大澤 秀行, 後藤 俊二, 和 秀雄, 白井 啓, 森光 由樹, 川本 芳
    セッションID: A-22
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     目的:和歌山市・海南市においてタイワンザル(Macaca cyclopis)の野生化、ならびに同種とニホンザル(M. fuscata)の間の交雑問題が発生から10年近くが経過し、交雑個体の排除が県の事業として進められている(『霊長類研究』17:186-187, 291-295)。並行して、交雑の拡散について観察・遺伝学的調査が行なわれている(上掲誌15: 53-60, 17: 13-24)。排除された個体について科学的知見を記録すべく、2003年よりワーキング・グループが構成され、多くの研究分野からの調査が行なわれている。本発表では、捕獲個体の尾長・尾椎数による交雑程度の検討結果を報告する。
     方法:03年3月より捕獲が始まり、06年度末までに338頭(含、胎児)が調査されている。剖検時に座高(頭頂から坐骨結節遠位端まで)と尾長(付け根から実質先端まで)をAnthropometerで、切り取った尾のX線写真より尾椎の元から先までの長さをキルビメータでそれぞれ計測した。Zygapophysisの有無別に尾椎をカウントした。
     結果:生体計測とX線写真計測による尾長はほぼ同じである(R2=0.98)。相対尾長(座高で基準化)は18.3-95.5%(平均値49.3%)と変異幅は大きい。尾椎数は平均16.2個(Range: 8-24個)で、13~20個で個数別個体頻度は7%以上であり、最大は18個を持つ個体クラスの12.0%である。尾椎数と相対尾長の間には、強い相関が認められる(R2=0.82)。
     考察:尾長は多くのマカク種で分類特徴とされ、タイワンザルとニホンザルの尾長は平均値95%、15%と著しい差がある。対象個体は両種の平均値を含む、連続する著しい変異を示し、様々な組合わせの交雑が示唆され、遺伝学的結果に合致する。今後、遺伝学的分析結果に基づいて尾長・尾椎数変異の遺伝性を検討し、交雑程度を評価する方法を示したい。
  • HUFFMAN Michael A., NAHALLAGE Charmalie
    セッションID: B-01
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    Sri Lanka has four primate species, the toque macaque (Ms), gray langur (Se), purple-faced langur (Ss) and slender loris. The main objective of this on-going study is to up-date the approximate distribution of each of these species to the sub-species level. The census is conducted using multi-lingual / picture questionnaires distributed throughout the country by students of the University of Sri Jayawardenepura, Colombo and extensive surveys by the authors, interviewing local inhabitants and direct observations at sites across the country. Three extensive surveys were conducted so far in 5 provinces covering the lowland, central, highland dry and wet zones. Ms have the widest distribution both in the dry and wet zones. Se are distributed mainly in northern and southern dry zones while Ss are distributed in the lowland wet and dry zone and the highlands. Mixed species grouping were noted for Ms and Se in the southern dry zones.
  • NAHALLAGE Charmalie, HUFFMAN Michael A.
    セッションID: B-02
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    The toque macaque (Ms), gray langur (Se) and purple-faced langur (Ss) inhabit varying ecological habitats. The ultimate goal of this study is to describe morphological sub-species patterns and compare them with genetic variation. Photographic records were collected during three field visits to Sri Lanka between 2004 and 2007. Ms in lowland dry zones have lighter body and tail color with relatively short head crown hair compared to Ms in the central regions where fur is dark brown to red and tails are black. Highland Ms are lighter in body and tail color than central ones and had the largest body size and longest head crown hair. Ss in the lowland wet and dry zones have a white rump patch and are smaller in size compared to highland Ss, who without a rump patch have both longer body fur and cheek hairs. For Se, no clear-cut morphological differences could be found other than that the more whitish body fur color of those in the southern lowland dry zone.
  • 日暮 泰男, 平崎 鋭矢, 熊倉 博雄
    セッションID: B-03
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    霊長類の四足歩行は、樹上、とりわけfine-branch niche への適応の結果であると考えられる特異な運動学的性質をいくつか示すとされる。本研究では、非連続な樹上支持基体を模擬する目的で、「水平梯子(horizontal ladder)」上での移動運動を分析することにした。水平梯子は、我々の研究室で従来用いてきたスチールパイプを用いた連続的な支持基体よりも、生態学的妥当性の高いセッティングであると考える。本研究では水平梯子のギャップ幅を変化させたとき、diagonal-sequence歩様による移動と、前後肢の機能分化がどのように変化するかという2点について重点的に分析を行なった。被験体は半地上性の霊長類種であるニホンザル2頭(オス4.5歳、メス4.3歳)を用いた。スチールパイプによって構築した水平梯子はその格子を可動式とし、ギャップ幅は等間隔とした。ギャップ幅は40~80cmの範囲内で、5cm刻みで変化させた。ニホンザルは非牽引的に水平梯子を移動するように充分なトレーニングを行なった。実験では移動中のニホンザルについてデジタルビデオカメラ2台による撮影を行ない、Frame-Dias II(DKH社)によるビデオ解析を行なった。結果:1)footfall patternは、ギャップ幅の増加に伴って、diagonal-sequence歩様→lateral-sequence歩様(ただし、この歩様は一方の被験体のみで見られた)→2×1歩様という順で変化した。2×1歩様は今回の実験で見出された歩様であり、footfall patternは例えば左後肢→左右前肢→右後肢→左右前肢となる。2)前後肢の機能分化については、Bolton et al.(2006)の主張するように、前肢は支持基体の位置を探索するという後肢にはない役割を担うことが示唆された。
  • 小薮 大輔, 清水 大輔, 大石 元治, 遠藤 秀紀
    セッションID: B-04
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     コロブス亜科(Colobinae)はアフリカからアジアにかけて広く分布する霊長類であり、他の霊長類に比べて葉食性が強い系統群とされるが、亜科内における頭蓋形態および体サイズは変異が著しいことが知られてきた。これまでその変異を生んだ要因は不明とされ、形態学の多くの学説を混乱させてきた。だが近年、亜科内の食性は果実食性、若葉食性、成熟葉食性、種子食性、雑食性など、多様であることが徐々に明らかになってきた。
     そこで、我々はコロブス亜科の頭蓋形態に見られる形態的多様性は、食物資源に対する適応進化の観点から説明しうるかどうか検討を行った。コロブス亜科内のアフリカコロブス亜族(Colobina)の2属6種、アジアコロブス亜族(Presbytina)の3属8種の頭蓋骨および下顎骨を材料として、種間の頭蓋形態の差は食性差を反映するのかをマンテル検定によって解析した。また、系統差による形態差への影響も同様にマンテル検定によって解析を行った。
     その結果、アフリカコロブス亜族の頭蓋形態差は食性差と有意に相関した一方で、形態差と系統差は有意な相関が見られなかった。逆に、アジアコロブス亜族の形態差は食性差とは有意な相関がない一方、形態差は系統差との有意な相関が検出された。つまり、アフリカコロブス亜族は系統的に近縁でなくとも食性が近い種同士は形態が収斂する一方、アジアコロブス亜族では食性が近いものでも形態は収斂せず、近縁種間ほど形態が類似することが示され、両系統群の頭蓋形態の進化パターンには大きな相違があることが認められた。アフリカコロブス亜族の頭蓋形態は各食性に応じて多様化したと推測されるが、対照的にアジアコロブス亜族の頭蓋は食性適応からは解釈ができず、系統性を反映すると結論された。
  • 山本 亜由美, 國松 豊
    セッションID: B-05
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    目的:歯牙のサイズとシェイプの2側面から、ニホンザルにみられる地域変異のありようとそれをもたらす要因について明らかにする。
     材料:15地域(下北、金華山、七ケ宿、日光、房総、神奈川、静岡、長野、白山、福井、小豆島、島根、高崎山、幸島、屋久島)由来のオトナのニホンザル450個体。
     方法:すべての歯種の近遠心径、頬舌径32項目をノギスで計測し、ペンローズのサイズ距離とシェイプ距離を求めた後、多次元尺度法により2次元展開した。サイズに関しては、歯冠面積の合計に対して説明変数として「最寒月の平均気温」、「最寒月の最大積雪量」、「餌付けの有無」、「地理的隔離の有無」を用いて重回帰分析も施した。
     結果と考察:歯牙サイズではオス、メスともに地理的隔離の効果が見られ、房総集団を含めた地理的に隔離された集団では歯牙が小さかった。さらに、メスでは最寒月の最大積雪量も歯牙サイズの増大に寄与していた。冬季における食物獲得の難易度がニホンザルの歯牙サイズに影響を与えている事が考えられるが、おそらくその影響はアカンボウや胎児を抱えて栄養条件の厳しいメスの方により強く現われるのであろう。歯牙のシェイプに関する分析では、多次元尺度法によって2次元展開した分布図において、オス、メスともに北関東(日光)から中国地方(島根)までの本州6集団が原点付近にひとつのまとまりを形成した。それ以外の集団は、この中核的なまとまりからそれぞれの方向に離れてプロットされた。東北地方、九州地方の内部の各集団は、それぞれ比較的近接した位置に現われた。ただし東北における金華山、関東における房総のように近接集団とはかなり隔たる例外も見られた。ニホンザルの地域変異に関する先行研究では頭骨の計測・非計測データの分析から「基幹集団」と「辺縁集団」という概念が考えられてきた。今回の歯牙計測値の分析も、基本的にはこの概念を支持するものである。
  • 宮木孝昌 , アリムジャン サウット, 斎藤 敏之, 熊倉 博雄, 伊藤 正裕
    セッションID: B-06
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     はじめに:ヒトを含む霊長類における肝臓の動脈供給パターンを検討するために、今回、分類学上ヒトに最も近い類人猿の中からゴリラ、チンパンジーおよびシロテテナガザルの肝臓に分布する動脈を調査した。
     材料と方法:ゴリラ(子供、雄)1頭とチンパンジー6頭およびシロテテナガザル8頭の腹部内臓を取り出し、肝臓周辺の血管と肝臓の動脈を剖出して、描画と写真撮影により記録した。材料はすべて10%ホルマリン液で固定済みのものを、摘出後、50%アルコール液で保存した。ヒトでは、3種の異なる起始をもつ肝動脈が肝臓に分布しているので、これらの肝動脈が存在しているかどうかを調査した。チンパンジーとシロテテナガザルは、京都大学霊長類研究所の共同利用研究(1992宮木)によって入手したものである。
     結果:1.ゴリラでは、2本の肝動脈(中肝動脈と左肝動脈)が肝臓に分布していた。両肝動脈の枝が広義の肝門に沿って吻合していた。中肝動脈は外側右葉と内側右葉、方形葉および胆嚢に分布しており、左肝動脈は外側左葉と内側左葉に分布していた。2.チンパンジーでは、3本の肝動脈(左、右および中肝動脈)が肝臓に分布するもの(1例)、2本の肝動脈(中肝動脈と左肝動脈、中肝動脈と右肝動脈)が肝臓に分布するもの(3例)および1本の肝動脈(中肝動脈)が肝臓に分布するもの(2例)がみられた。肝動脈の肝内分布はそれぞれ異なっていた。3.シロテテナガザルでは、すべての例において、1本の肝動脈が肝臓に分布していた。肝動脈は総肝動脈から分かれており、総肝動脈は腹腔動脈あるいは腹腔腸間膜動脈から分岐していた。
     考察:ヒトでは肝臓が起始の異なる3本の肝動脈および2本の肝動脈から動脈供給を受けているものは、27%(378例中102例)にみられている。今回調査した類人猿の中で複数の肝動脈が存在するものは、ゴリラでは100%(1例中1例)にみられ、チンパンジーでは67%(6例中4例)にみられ、シロテテナガザルではみられなかった。調査した例数は少ないが、ゴリラとチンパンジーでは、ヒトよりも多いことが推測される。
  • アリムジャン サウット, 宮木孝昌 , 斎藤 敏之, 熊倉 博雄, 伊藤 正裕
    セッションID: B-07
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
     はじめに:ヒトを含む霊長類における膵臓の動脈供給パターンを検討するために、今回、分類学上ヒトに最も近い類人猿の中からゴリラ、チンパンジーおよびシロテテナガザルの膵臓に分布する動脈を調査した。  材料と方法:ゴリラ(子供、雄)1頭とチンパンジー3頭およびシロテテナガザル2頭の腹部内臓を取り出し、膵臓周辺の血管と膵臓に分布する血管を剖出して、描画と写真撮影により記録した。材料はすべて10%ホルマリン液で固定済みのものを、摘出後、50%アルコール液で保存した。ゴリラとチンパンジーとシロテテナガザルの膵臓を、ヒトの膵臓とほぼ同じように、膵頭、膵体および膵尾に大別した。チンパンジーとシロテテナガザルは、京都大学霊長類研究所の共同利用研究(1992宮木)によって入手したものである。
     結果:1.ゴリラとチンパンジーとシロテテナガザルの膵臓は、ヒトとほぼ同じように、膵頭、膵体および膵尾に大別された。2.ゴリラでは、上腸間膜動脈の枝は膵頭の一部と膵体の一部に分布して、総肝動脈の枝が膵頭の一部に分布して、脾動脈の枝が残りの領域に分布していた。3.チンパンジーでは、上腸間膜動脈の枝と総肝動脈の枝が膵頭に分布し、脾動脈の枝が残りの部分に分布していたもの(1例)、総肝動脈の枝が膵頭の一部に分布し、脾動脈の枝が膵尾の一部に分布して、上腸間膜動脈の枝が残りの部分に分布していたもの(1例)、および総肝動脈の枝が膵頭の一部に分布し、上腸間膜動脈の枝が残りの領域に分布していたもの(1例)がみられた。4.シロテテナガザルでは、総肝動脈の枝と上腸間膜動脈の枝が膵頭に分布し、脾動脈の枝が残りの領域に分布していたもの(1例)と総肝動脈の枝と腹腔動脈から起こる枝が膵頭に分布し、残りは脾動脈からの枝が分布していたもの(1例)とがみられた。
     考察:ヒトでは膵臓は総肝動脈と脾動脈の枝と上腸間膜動脈からの枝によって動脈供給を受けているが、類人猿では膵臓はこれらの動脈供給のほかに、腹腔動脈系だけから受けるものと、上腸間膜動脈系からの分布領域が大きいものが見られた。今後、狭鼻猿や広鼻猿を調査して、検討したい。
  • 松本 圭史, 小澤 範宏, 平松 千尋, 河村 正二
    セッションID: B-08
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    色覚は網膜中の視物質が光を吸収することにより生じる感覚である。視物質はオプシンタンパク質と発色団から構成され、オプシンのアミノ酸配列により視物質の最大吸収波長(λmax)は大きく規定される。多くの新世界ザルはX染色体上に異なるλmaxを示す赤-緑オプシン遺伝子が複対立遺伝子として存在することにより、同一種内に色覚の多様性が見られる。メスは赤-緑オプシン遺伝子がヘテロ接合となれば常染色体上の青オプシン遺伝子と合わせて3色型色覚になるが、ホモ接合となれば2色型色覚になる。X染色体を1つしかもたないオスは全て2色型色覚になる。これまで赤-緑オプシン遺伝子は、数多くの遺伝子改変-機能解析がおこなわれてきた結果、3つのアミノ酸サイトにおけるアミノ酸の組み合わせでλmaxを予測できることが知られている。この予測は脊椎動物のほぼ全ての赤-緑オプシン遺伝子に当てはまり、これまで明らかにされた新世界ザルの赤-緑オプシン遺伝子においても例外は見られていない。我々はこれまでにコスタリカ・サンタロサ国立公園のチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)自然集団を対象に赤-緑オプシン遺伝子を単離し、それらに2種類の対立遺伝子があることを示した。アミノ酸配列からλmaxを予測するとそれぞれ、560nm、552nmであった。しかし、培養細胞を用いて視物質をin vitroで再構成することによりλmaxを決定したところ、それぞれ553nm、538nmであり、予測値よりも大きく短波長シフトしていた。これは脊椎動物を通じてはじめての明瞭な例外であった。このような波長分化はクモザル科の進化のどの時期に、どんなアミノ酸置換により生じたのであろうか?これらの点につき本発表ではこれまでに得られた結果を報告する。
  • 河村 正二, 平松 千尋, 岡部 友吾, Melin Amanda, Aureli Filippo, Schaffner Colleen, ...
    セッションID: B-09
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    これまでに我々はコスタリカ・サンタロサ国立公園に生息するチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)1群を対象に糞DNAを用いて赤-緑オプシン遺伝子型の判定を行い、色覚の種内多型が自然集団に実在することを報告している。また、2003~2005年にかけての8ヶ月間に、2色型16個体、3色型10個体の行動を個体追跡サンプリング法により観察し、合計約60時間の記録を得ている。昨年本学会でクモザル色覚における葉に対する果実の推定視認度と採食成功率との相関から色相よりも明度が果実採食において重要な手がかりとなることを示し、3色型色覚はクモザルの果実採食において必ずしも有利ではないと報告した。しかしそれならばどうやって色覚多型は維持されうるのであろうか。本研究では集団遺伝学的方法により赤-緑オプシン対立遺伝子変異の中立性検定をおこない、自然選択の存在を検証するとともに、行動データのさらなる分析を試みた。赤-緑オプシン遺伝子の全6エクソンについてそれぞれ周辺非コード領域を含む各約0.5-1kb及び比較対照として4つの中立配列それぞれ約0.5kbを群れのほぼ全個体について配列決定し、塩基多様度(2配列間の平均塩基相違数)と塩基多型度(全配列中の多型サイト数を標本数で規定される関数で割った値)を求めた。その結果、平衡選択がかからないと予想されるエクソン1と6では多型性が低く、エクソン2~5で中立遺伝子より10倍以上多型性が高いことがわかった。さらにTanjima’s Dテストの結果も合わせ、平衡選択が確かにクモザルの赤-緑オプシン対立遺伝子変異に働いていることが明らかになった。行動データの再分析に関しては各果実種に対する3色型と2色型の採食効率の差の大きさとそれらの果実の色相視認度の間に相関が認められるかという観点から現在解析をおこなっている。
  • 辻 大和, 霜田-石黒 真理子, 大西 信正, 高槻 成紀
    セッションID: B-10
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    (目的)“Gleaning” は樹上性の動物が落とす植物を地上性の動物が採食するという種間関係である。本研究では、ニホンジカ (Cervus nippon) とニホンザル (Macaca fuscata) の間で見られるgleaningを対象として、この関係が地上性の動物にとって利益があるのか否かを明らかにする。
    (方法)宮城県金華山島で、2000年5月から2006年12月の約6年間にわたってニホンジカとニホンザルの関係を記録した。同時に、ニホンジカ本来の食物である草本類の利用可能量を調べ、ニホンザルが樹上から落とす食物と草本類の栄養分析を行った。また、ニホンジカの栄養状態は人付けされた個体の体重を測定して調べた。
    (結果と考察)Gleaningの発生頻度は春 (3月~5月, n=28) にもっとも高く、秋 (9月~11月, n=15) がそれに次いだ。ニホンジカの栄養状態は食物の不足する早春に最も悪かった。ニホンザルが落とす植物の採食単位重量および総エネルギー含有量は、ニホンジカ本来の食物である草本類のそれに比べて高かった。また春は、ニホンザルが落とす植物の粗タンパク質含有率が草本類のそれに比べて高いという特徴があった。以上の結果は、ニホンザルとの食物を巡る関係は、ニホンジカの採食成功にとって利益があることを示唆する。今後はニホンジカの行動追跡を行ってより詳細なデータを収集し、ニホンジカの採食成功にとってのニホンザルの貢献の程度を明らかにしていく必要がある。
  • 西川 真理
    セッションID: B-11
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    (目的)動物の採食パッチの訪問パターンと移動様式を知ることは、彼らがどのように遊動域内を利用しているのかを理解することに繋がる。ニホンザルは主に樹木で採食を行うため、樹木個体を1つのパッチとみなせる。そこで、採食樹木個体別にサルの訪問回数を調べた。また、樹木個体への移動距離、移動速度を訪問回数ごとに比較した。
    (方法)調査は屋久島西部海岸域に行動域をもつE群のオトナメス5個体を対象に、2005年7月~2006年3月におこなった。追跡対象個体の中から1日に1個体を観察対象とし、終日個体追跡をおこなった。個体追跡中は、GPSで遊動ルートを記録した。また、各採食樹での採食バウト長を記録し、樹木にはナンバーテープを付け、種名と採食部位を記録した。
    (結果)サルが4回以上繰り返して利用した樹木個体は全体の約5%を占めていた。この中には10回以上にわたって繰り返して利用した樹木個体が含まれていた。また、採食樹への移動距離を1回のみ利用した樹木個体と繰返し利用した樹木個体とで比較すると、繰り返し利用した樹木個体へのほうが長く、移動速度は速かった。また、採食バウト長は、繰返し利用した樹木個体での方が長かった。
    (考察)高頻度に繰り返し利用する採食樹木個体が存在することから、サルは採食樹を選択的に利用していることが示唆された。サルは価値の高い採食パッチになることが見込める、すなわち「あの木に行けば必ず一定量の食物を得られるはずだ」という先見性が持てる特定の樹木個体を選好して繰り返し利用していると考えられる。
    このようにサルの採食樹への移動は、採食効率の観点からみると効率的におこなわれていると考えられ、ニホンザルは彼らの遊動域内の食物パッチの空間的な位置関係を把握していることが示唆された。
  • JAMAN Mohammad F., HUFFMAN Michael A.
    セッションID: B-12
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    The main objective was to collect baseline data on the differences in activity budgets between groups housed in vegetated and non-vegetated conditions. Comparison of activity budgets of 34 captive monkeys (3264 focal sessions) living in 3 different enclosures was conducted for a 12-month period at the Primate Research Institute. Resting and moving time was significantly longer in the 2 non-vegetated than the 1 vegetated enclosure. Feeding and grooming time was significantly longer in the vegetated enclosures. In the vegetated enclosure, seasonal variation of resting and moving time differed significantly, while in the non-vegetated enclosures all activities varied significantly. Seasonal temperature significantly affected time spent feeding and resting. In both enclosure types, immatures of both sexes, particularly immature females, spent longer time feeding and moving, whereas adults spent longer time resting. Time spent for all activities was significantly differed by age classes but not by sex classes.
  • 古市 剛史, 橋本 千絵
    セッションID: B-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    カリンズ森林保護区の野生チンパンジーを対象として、食物パッチの利用パターンを調べた。一本の果実樹を一つの食物パッチと考え、樹冠の面積と果実の密度を記録するとともに、最初のチンパンジーがその木に登ってから最後のチンパンジーがその木を去るまで、5分おきのスキャンでパッチ内の個体の行動を記録した。樹冠面積、果実密度、総果実量のさまざまな変数に対する偏相関係数を調べたところ、総果実量と食物パッチの利用個体数、総果実量と総採食ユニット数に有意な相関があることがわかった。一方、利用個体数と他の変数との相関を調べたところ、利用個体数が多いほど食物パッチの利用時間が長くなるが、個体あたり単位時間あたりの採食ユニット数は減少することがわかった。採食樹に集まって大きなパーティを形成したチンパンジーは、樹上で採食と休息・グルーミングを繰り返し、採食効率とは無関係に長時間滞在する。これらの分析から、豊富な食物を擁するパッチに多くのチンパンジーが集まって長時間採食するという生態学的要因と、集まったからには採食効率と関係なく社会交渉をもつという社会学的要因が、ともにチンパンジーの食物パッチの利用パターンに影響していることがわかった。
  • 五百部 裕
    セッションID: B-14
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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    チンパンジーのベッド作成の際の場所や樹種の選択は、彼らの遊動パターンなどに大きな影響を与えていると考えられる。一方彼らの直接観察が難しい地域では、ベッドセンサスにより、密度や土地利用などを推定することが多い。そこで、これらの点の推定の精度をより高めるためには、直接観察が可能な調査地でベッド作成行動と遊動などの関係を明らかにする必要があると考えられる。こうした観点から、チンパンジーの長期継続調査が行われているタンザニア、マハレにおいて、彼らの遊動パターンとベッド作成行動との関連を調査した。そしてセンサスから得られた情報に基づくベッド作成の特徴について分析し、ベッド作成場所として疎開林より森林が好まれること、乾季と雨季で樹種の選択に違いがあること、ベッドを作る樹種と採食樹との間には明確な関連がないことなどを明らかにし、前回の日本霊長類学会大会等において発表した。今回の発表ではこれらの点を踏まえ、ベッド作成行動と遊動との関連を分析したので、その結果を報告する。分析に用いた資料は1995年8月~12月の現地調査の際に収集した。M集団の遊動域内に三つのルートを設定し、ルートセンサスを行った。ルートから片側30メートル以内で発見されたベッドの場所、植生、「古さ」、高さ、樹種を記録した。植生は疎開林と森林の二つに分けた。「古さ」は4段階に分けて記録したが、今回の分析では、同一ルートのセンサスの平均間隔よりも崩壊速度の平均が短い、「新しい」および「中間」と判断された段階の164個のベッド(サイト数では71個)を使用した。そして調査期間が乾季と雨季に大別できることから、この二つの季節に分けて分析した。チンパンジーの遊動に関しては、同時期にチンパンジーの個体追跡を行っていた研究者が作成した遊動図を利用して解析した。これらの資料をもとに、ベッド作成行動と遊動との関連を考察した。
  • 丸橋 珠樹, 北村 俊平
    セッションID: B-15
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     ブタオザルは、スマトラ島やボルネオ島などの熱帯多雨林から、マレー半島、ベトナム、タイ、ミャンマーなどの熱帯季節林にまで、広大な生息域をもっている。ブタオザルは、Macaca nemestrina nemestrinaとM. n. leoninaの2亜種に分類されている。本研究対象としたブタオザルは、北方に生息するM. n. leoninaであるが、本亜種の社会生態については、情報が乏しいのが現状である。
     調査は、タイ王国のカオヤイ国立公園で、公園面積は2,168平方キロであり、高度は246メートルから最高点の1,351メートルにおよんでいる。地形を大きくみれば、標高約800mから900mを平坦面とする大きな台地状になっている。台地面は、高さ30メートルを超える樹冠が連続した湿潤林で覆われている。公園内を通過する道路沿いで半餌付け状態の群れを、人づけして森林内でも長時間の個体追跡を行い、採食データを収集した。総個体追跡時間は375時間であった。
     群れの個体数は約150頭であり、遊動域面積は700haを越えていた。採食樹には番号を振り、果実木単位で識別を行い、群れがどのように木選択をしているかを調査した。サルの個体追跡と同時期に、遊動域内に設けられている面積4haの植物フェノロジー研究プロットでは、果実結実調査を行った。この4haプロットでは、結実密度や落下果実量を測定した。本発表では、森林の果実生産状況とブタオザルの果実食生態とを関連づけて報告する。
  • 村井 勅裕, 山田 朋実, 松田 一希, 東 正剛
    セッションID: B-16
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
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     東南アジアのボルネオ島にのみ生息するテングザルNasalis larvatusは、コロブス亜科に属する。コロブス亜科は嚢状に大きく発達した前胃を有し、その内部にはセルロース分解菌などの微生物が棲息し、その分解作用により、本来消化できない高繊維質の食物から栄養を得ることができ、さらに植物に含まれる有害な消化阻害物質などを無毒化できる。コロブス亜科の前胃の構造と機能は、反芻動物の反芻胃と類似した点が多いが、摂食物を胃から口腔内へ吐き戻して再咀嚼する反芻行動は、コロブス亜科において今まで報告がなかった。しかし今回テングザルにおいて吐き戻し及び再咀嚼するのを観察した。そこで本研究ではテングザルの吐き戻し行動の概要と食性との関連について調査し、コロブス亜科における吐き戻し行動の発生要因と意義について考察した。
     本研究では、テングザルの行動を撮影したビデオを用いて、個体・食性・吐き戻し行動に関するデータを収集し解析を行った。ビデオは2000年1月から2001年3月までの期間にボルネオ島(マレーシア・サバ州)キナバタンガン川支流流域で撮影されたものである。
     テングザルの吐き戻し行動は、計195時間の撮影時間において23例と極めて低い頻度で観察された。吐き戻し行動は、新生児を除く全ての齢段階の個体で見られ、全て午前中の休息時に行われていた。午前に吐き戻しを行う理由として、胃内容物によって採食量が制限されるのを防ぐために採食前に胃内容物の通過を促すことが推測された。テングザルの採食時間は葉・果実・花の採食が大部分を占めたが、各部位採食時間の割合は月ごとに異なった。吐き戻し行動の観察頻度は、葉の採食時間との間に有意な正の相関を示した。そのため、採食において葉への依存が高いときに吐き戻しが起こりやすくなる、つまり繊維質の高い食物を摂食すると吐き戻しが誘発されやすいと考えられる。
  • タルノー ローラン
    セッションID: B-17
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    Eight mother-young pairs of free ranging Japanese macaques, sampled equally from two groups and divided in two set of young (weaned infant less than one year old and juveniles aged between 1.5 and 2 years old), were followed during three months in winter 2005-2006. I systematically recorded the intense behavioural observation directed toward elder by young of the two age-classes, the items manipulated by the elder and closely observed and the immediate post-behaviour displayed by young as well as the items or the location explored. Moreover, I estimated the mothers and juveniles diet from the proportion of occurrences for each food items ingested and from the quantity of fresh matter ingested. It appeared that the intense behavioural observation of both infants and juveniles were directed toward elders engaged in a feeding behaviour on the main food items (mainly fruit, seed) or in an insect foraging behaviour. Infants exhibited the intense behavioural observation more frequently than juveniles. They also showed the intense observational behaviour toward elder other than their mothers, while juveniles did not. Moreover, after having paid an attentive attention the elder's foraging behaviour, infants displayed the same behaviour as the elders and that more frequently than juveniles. These results match the juveniles-adult dependent model of social transmission of information described by King (2005). Furthermore, the intense behavioural observations relevant of late infant stage corresponded to the phase of transition between a milk diet and a solid diet and might be certainly considered as a behavioural process to obtain information about critical survival skills as edible and rich-food in sugar, lipid and protein selection and location.
  • 清水 大輔, 船越 美穂
    セッションID: B-18
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    クマイザサ(Sasa senanensis)は中部日本から北日本の亜寒帯・亜高山帯に広く分布し、林床部の植生を形成する重要な植物である。その幼稈には相当量の多糖類が含まれることもあり、春から初夏にかけ、さまざまな地域のニホンザルに食品として利用されている。しかしクマイザサの成葉はニホンザルにあまり食品として利用されない。長野県安曇野市に生息する野生ニホンザルは冬季にクマイザサの成葉を採食する。ニホンザルは葉身の主脈と辺縁部を残し他の部分を器用にむしり取って食べ、食痕として葉身基部(葉柄に近い部分約5分の1)、主脈、葉身の辺縁部が残る。本研究では安曇野のニホンザルがクマイザサの成葉のある部分を利用するもしくは利用しない要因について、硬さ分析・栄養分析をおこなうことで検討した。栄養分析については非食部位(主脈、葉身基部、葉身の辺縁部)と被食部位に分けておこなった。硬さに関しては、葉身を主脈、葉身の辺縁部、これらの中間部分の3部位に分けて、さらにそれぞれ部位について葉身を均等に10分割する場所9計測点、計27計測点で計測をおこなった。栄養分析の結果、被食部は非食部に比べ蛋白質、灰分が多く、植物繊維が少ないことが示されたが、水分、脂肪、蛋白、灰分、植物繊維の乾燥重量比が概ねそれぞれ、約47%、3%、14%、11%、65%であった。また、硬さ分析の結果から葉身のどの部位でも基部から先端に行くに従い柔らかくなる傾向が見られた。主脈は他の部分に比べかなり硬く、葉身の先端5分の1の場所での主脈の硬さは、葉身基部5分の1の場所における主脈以外の部分の硬さとほぼ同じであった。クマイザサの被食部分は他の霊長類により採食される食物のうちこれまで硬さが測定されてきたものに比べても柔らかい。一方、非食部分の内主脈は他の部分に比べ圧倒的に硬く、辺縁部にはシリカが多く沈着する。そのため歯の咬耗を促進することが考えられ、安曇野のニホンザルは上述の様な採食方法を取るのであろう。
  • 宇野 壮春, 伊沢 紘生, 藪田 慎司, 村瀬 英博, 大島 かおり
    セッションID: B-19
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/05/30
    会議録・要旨集 フリー
    脊梁山脈の東斜面、宮城県側にすむサルの群れは1985年前後までは山奥で生活し農作物被害を起こしていなかった。しかし、それらすべての群れ(計7群)は以後急速に下流域に遊動域を拡張し、個体数を増やしては分裂を繰り返し(現在計15群)、多大な農作物被害を発生させている。このような中、宮城のサル調査会は帝京科学大学及びNPO法人救助犬訓練士協会との共同研究プロジェクトとしてイヌをサル追い専門に訓練し、群れの遊動域を強制的に変更させ山奥へ追い上げるという試みを、2005年からの2年間試験的に実施してきた。選定した対象群は連続分布する群れの中で最も上流側に生息し、あまり人馴れしていない群れである(上流の群れ)。一方で、農地及びその周辺に年間を通して居つき人馴れしている群れ(下流の群れ)に対しては、イヌの効果を上流の群れと比較する試みを行った。その結果、上流の群れはイヌを放すと奥山の方へ一直線に逃げ出すが、下流の群れはスギ林やガケや深いヤブに逃げ込んでイヌをやり過ごした。また、上流の群れは追われる事に対して次第に警戒心を強めていき、遊動域を奥山の方へ拡張し、追い上げ後しばらく田畑に出没しなくなったが、下流の群れは遊動域の変更はごくわずかですぐに戻ってきた。田畑や民家周辺の食物はいったん馴じんだサルにとっては嗜好性が極めて高いからだろう。上流の群れも追い上げの期間が空くといずれ舞い戻ってきた。以上のことから、上流の群れに対してはサル追い犬でできるだけ継続的な追い上げを行いながら、奥山に拡張した遊動域を固定させるため最前線の農家の飼育犬をパトロール犬として訓練し、里とイヌの関係をサルに学習させることが今後必要になる。一方下流の群れに対しては効果的な防除策等を併用させながら若年個体を主なターゲットとして、まずは人や里への恐怖心を植え付けることが先決と考えられる。
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