抄録
ニホンザルは、毛づくろい前に発声することが知られている。この発声は個体間関係の調整に役立っていると考えられる。発声は相手が至近距離に近づいたときにみられるとされているが、どのような個体がどのくらいの距離で声を出しはじめるかは正確にはわかっていない。そこで本発表は、どのような個体がどのくらいの距離で発声するかを二つの地域で調べて比較する。
調査をおこなったのは、宮城県金華山島と鹿児島県屋久島である。2006年7月から9月に金華山島のA群とB1群、2007年1月から3月に屋久島のKawahara-Z群とNina-A-1群をそれぞれ調査した。群れ内にいる血縁個体の割合は、金華山の二群の方が屋久島の二群よりも高い。各群れから高順位、中順位、低順位のオトナメスを2頭ずつ選び、1個体につき10時間ずつ個体追跡をした。記録にはデジタルビデオカメラを用いた。
ほとんどの発声は相手との距離が6m以内になったときにみられた。とくに1m未満で声を出しはじめることが多く、発声がみられた事例の43% (16/37) を占めた。また、非血縁個体同士の方がより遠くから声を出しはじめていた。金華山の二群では平均1.7m (n=13)、屋久島の二群では平均2.7m (n=24) で、屋久島の方が金華山よりも遠くから声を出しはじめる傾向があった。
金華山と屋久島の間で声を出しはじめる距離が異なるのには、群れ内の血縁個体の割合が関係している。非血縁個体同士の方が接近への積極性と許容性が低いと考えられる。群れ内の非血縁個体の割合が金華山に比べて高い屋久島では、より遠くから声を出すことによって接近と毛づくろいの許容を促す必要があるのではないか。