抄録
屋久島は面積約500km2の小さな島であるが、植物の垂直分布による生息環境の違いに応じ、ニホンザルMacaca fuscataの生息密度が標高帯間で異なることが知られる。このことが屋久島集団の生態特性であるか、明らかにするために、植物の垂直分布の見られる台湾島に生息するタイワンザルM. cyclopisの比較調査を計画した。台湾島は面積約36000km2、標高4000m近い玉山を擁し、亜熱帯から冷温帯まで植物の垂直分布が見られる。本島一円にM. cyclopisは生息し、生息密度に地域変異が報告されている。今回は二調査地で群密度を調べた。2006/11/30-12/1に、屏東縣の浸水營古道(調査区1、標高200-1400m: 照葉樹林)、2006/12/4-6に、高雄縣の楠梓仙渓林道(調査区2、標高1700-2200m: 照葉樹林と針葉樹林)を調査路とし、M. cyclopisの目視、音声情報、路上の糞を記録した。調査者に対する反応を、無視、警戒、逃走に三区分して記録した。M. cyclopisの群密度は、新鮮な糞の個数から推定した。推定には、調査区1では道幅2m、先行研究より群頭数を30頭、調査区2では5m、7.8頭とし、一頭あたり一日3回の糞をすると仮定した。調査の結果、糞の発見頻度、推定群密度は、低地の調査区1 (0.64個/km, 3.5群/km2)にくらべ、高地の調査区2 (0.84個/km, 7.2群/km2)で高かった。M. cyclopisの調査路からの発見距離は二調査区で、52.6±36.2m (平均±SD)だった。M. cyclopisの反応は二調査区で、無視1回、警戒12回、逃走3回だった。調査区2では、最大で1群あたり9頭を数えた。今後は、群れの構成の垂直方向の変異と、地域間比較のために調査地点を増やしたい。