抄録
チンパンジーの「食物」カテゴリーの適用範囲について、ヒトの典型性尺度を用いて比較分析した。被験者としたのは京都大学霊長類研究所(以下、霊長研)で飼育されている大人5人と子ども3人で、いずれも飼育下で生まれたか、約30年間飼育下で生活している個体であった。
実験は霊長研類人猿行動実験棟内のタッチモニターが設置された実験用ブースでおこなった。課題はカテゴリー選択課題で、モニターに提示された4枚の写真の中から食物の写真を選択すると、報酬が得られた。訓練は道具などの人工物3枚と、ヒト評定者がもっとも典型的とした果物や野菜の写真を用いておこない、すべての個体が80%以上の確率で食物を選択できるようになった。テストでは、1)ヒトの評者が高い評定値をつけた加工調理された食物、2)低い評定値をつけた果実(栽培用ではない木や草の実)、3)低い評定値をつけた草本や木の葉、4)道具などの人工物の4品目の組み合わせを提示し、どれを選択しても報酬が与えられた。テストの結果、大人1人と子ども2人は、50%以上の確率で2)評定値の低い果実を選択し、他の大人3人も約40%の割合で2)の果実を選んだ。これら6人では3)の草本や木の葉も10%から40%の割合で選択した。他の大人1人と子ども1人は1)の調理された食物を60%以上の確率で選んだ。いずれの個体も4)人工物を選んだ割合は5%未満だった。評定地が低かった果実は、色彩的にも形態的にも、訓練で用いた果実や野菜とは異なり、物理的な特徴に基づく刺激般化だけでは説明できない。被験者のチンパンジーはいずれもさまざまな樹木や草本が生育する環境で生活しており、それらの葉や花を食べている。今回の結果は、ヒトとチンパンジーの間の食物の典型性認識の違いを表していると考えられる。