抄録
ボルネオ島マレーシア領サバ州、ダナムバレー森林保護地域内にある観光ロッジ周辺2km2 において、野生オランウータンの調査を行った。本研究の目的は、本調査地のオランウータンの採食行動の特徴を明らかにすることである。果実食中心であるオランウータンは、果実生産が月単位および年単位で著しく変化する東南アジアの熱帯雨林の食環境の中でどのように適応しているのかを明らかにする。
調査方法は、調査地内の果実生産量やオランウータンの生息数を把握するために、全トレイルから落下果実を収集する結実フェノロジー調査と、ネスト(巣)センサスによる個体群密度調査を毎月行った。その他、オランウータンを早朝から夕方まで追跡し、直接観察による行動の記録を行った。
ダナムバレーでは2005年7-9月と2007年7-9月に一斉結実が起った。各月に新しく発見されたネスト数から推定した生息密度には2つの大きなピークが観察された。オランウータンのネスト数は、平均N=20.4であったが、中規模な一斉結実時(2005年7-9月)に最大N=68、小規模な一斉結実時(2007年8月)ではN=33に増加した。これらの2つピークは2度の一斉結実時の果実量のピークとおおまかに一致した。
直接観察では、2004年8月~2007年12月の間に計32 頭(定住個体9頭含む)を追跡した。1786時間の観察時間中、記録された採食品目は合計1443サンプル(54科120 属)であった。採食時間割合は果実58%、葉24%、樹皮13%、その他5%を示した。各月の採食時間割合には季節変化が見られ、2度の一斉結実では果実を90%以上採食した。しかし、果実が25%以下に下がるときには、葉や樹皮を中心に採食した。
これらの結果は、他地域から多くの個体が果実を求めて流入および流出したことを示唆している。本発表では、食物利用の季節変動や果実の選好度と交えて考察する。