抄録
霊長類の分布の中心である熱帯に比べ、温帯は気候も食物利用可能性の点でも、より季節変化の大きな環境である。そのような場所で生息するには、どのような生態学的適応が必要なのかを明らかにするため、マカク生息地の東西の端である日本とモロッコ・アルジェリアに生息する、ニホンザルとバーバリマカクの比較を行った。両者の生息環境は、北アフリカのほうが日本よりも種構成が単純で、より厳しい環境であると考えられた。食性は種内での変異が大きかったが、両種とも果実・種子を選好する傾向と、熱帯のマカクに比べれば葉の採食時間が多い傾向が見られた。秋に果実の採食が増え、冬には常緑樹の成熟葉・落葉樹の冬芽などの繊維性の食物を食べる傾向が、共通して見られた。ニホンザルの生息地である屋久島と、バーバリマカクの生息地である中アトラスの間で、食物となる植物の葉、食物とならない植物の葉の化学成分を比較した。食物・非食物に関わらず、中アトラスの方が繊維成分が少なく、脂肪が多く、縮合タンニン・加水分解タンニンが多い傾向が見られた。また、屋久島では縮合タンニンが少ない葉を食物として選択する傾向があったが、中アトラスではそのような傾向は見られなかった。以上のことから、温帯に生息するマカクの共通性として、繊維性の食物への耐性と、果実・種子などの高質の食物への選好性が見られることが分かった。また、繊維性の食物への耐性の程度は、その環境の厳しさの程度によって異なり、北アフリカは、日本より植生の構造が単純で二次化合物(縮合タンニン・加水分解タンニン)を葉に多く含むが、バーバリマカクは、二次化合物を多く含む葉を忌避することなく採食していた。今後、キンシコウなど、温帯に適応を果たした、他の系統群との比較が必要である。