抄録
これまでの発表において、チンパンジーは自種や他種に限らず顔刺激を他の雑多な対象物の中からきわめて効率的に探索することができることを報告してきた。この効率的探索は倒立提示によって著しく阻害されることから、顔刺激の全体的処理と効率的探索の間の強い関係が示唆された。一方ヒトでは、近年、顔だけでなくからだについても倒立提示による知覚・認知の妨害効果が報告されており、からだのパターンの知覚についても全体的処理が関与している可能性が示唆されている。したがって、顔刺激について見られたような効率的探索が「からだ」についても認められる可能性がある。そこで、本研究では複数個体のチンパンジーを対象に、視覚探索課題を用いてこの問題を検討した。23カテゴリのシルエットパターン(計1450刺激)のうち、チンパンジーのからだ、魚、イス、船、の4カテゴリを標的刺激として、その他の雑多なパターンの中から標的刺激を見つけ出すことを訓練した。標的刺激はセッションごとに固定し、提示される刺激の個数は試行ごとにランダムに変化した。その結果、チンパンジーは、標的となるシルエットパターンを雑多な妨害刺激の中から見つけ出すことが可能であり、そして、特にチンパンジーのからだについては、他の標的刺激のカテゴリとは異なり、比較的速く見つけ出すことができた。つまり、チンパンジーはこれまでに見たことのないかたちであっても、知覚的な類似性によって比較的容易にカテゴリ化することができること、また、既知なカテゴリについては彼らにとってより意味のあるチンパンジーのからだの方がより効率的に検出できること、が今回の実験から示唆された。この結果は顔刺激での実験結果と類似するものであるが、チンパンジーが「からだ」パターンに対しても、顔と同様に全体的処理を行っているのかについては、今後さらに検討する必要がある。