抄録
(目的)群れ生活を営む霊長類では、同種他個体との間に生じる葛藤を避けられないことから、葛藤状態へ対処する行動が発達したと考えられている。オランウータンは単独性の強い社会を持つため、野生下の個体間で起こる社会交渉は少ないとされるが、飼育下では多くの社会交渉が起こることが知られている。本研究では、飼育下のボルネオオランウータンにおいて第三者個体による攻撃介入行動の事例を報告する。
(方法)東京の多摩動物公園において2007年9月から12月にかけての62日間、新導入個体を中心に6頭のボルネオオランウータンをいくつかの組み合わせで観察し、個体間の交渉を行動サンプリングで記録した。
(結果)攻撃は特定のメス2個体間で一方向的に起こった。被攻撃個体は新導入個体であり、この2個体の同居を13日観察し、28例の攻撃が観察された。そのうち3日間で、第三者個体が体を割り入れるようにして介入し、攻撃個体を止める行動が17例観察された。介入個体は攻撃個体の母親と息子であった。また介入が起こった直後、被攻撃個体の陰部を攻撃個体と介入個体がともにのぞき込み、攻撃が止まるという事例が1例観察された。
(考察)これまでわずかに報告されている飼育下オランウータンの攻撃介入行動における介入個体はオトナオスであり、今回の観察は老齢メスとワカモノオスが介入した新事例である。これらの個体の介入行動は、導入後2ヶ月ほどの非血縁個体を逃がすように起こり、血縁によらない行動であることが示唆される。オランウータンは、空間が限定され、個体密度の高い状態で生活する場合には、群居性に似た社会性を発達させる可能性が考えられる。