抄録
アラビア数字をもちいた系列記憶課題をチンパンジーとヒトを対象におこなってきた。前回大会では、チンパンジーの子どもが、チンパンジーのおとなやヒトのおとなよりも、記憶課題において非常にすぐれたパフォーマンスをみせることを示した。本研究では、あらたにヒトの子どもにおいて同様の課題をおこない、チンパンジーの子どものパフォーマンスとの比較をおこなった。ヒトの実験参加者は、実験趣旨にご理解いただいた保育園の園児8名(男児4名、女児4名;実験開始時4歳から5歳)である。子どもは、保育園に隣接する施設の個別作業室にて、週1回程度、一人ずつ実験者同室において課題をおこなった。課題は、タッチパネルモニタに現れたいくつかの数字を小さい順に指で触れて消していくものである。「数字系列課題」は、2段階から成る。第1段階では、12、123、・・・123456789の隣接数のみの数字列がランダムにあらわれた。第2段階では、13、28といった非隣接の組み合わせがあらわれる課題を2数字から順に9数字までおこなった。これらの課題が終了したのち、記憶課題にうつった。「数字記憶課題」では、最も小さい数字に触れたとたん、画面に残ったすべての数字が市松模様に塗りつぶされた四角形に置き換わった。どの数字がどの位置にあったかを記憶し、数字の昇順に四角形すべてに触れて消せば正解となる。この課題は数字2個の段階から始め、学習進度に応じて数字9個までの段階を設けた。現在、4名の子どもが「数字記憶課題」に移行している(6数字終了1名、4数字終了3名)。ここまでの結果から、ヒトの子どもは、ヒトのおとなと似た反応パタンを示すことがわかった。チンパンジーの1秒未満の反応にくらべ、1つめの数字を選ぶまでの反応時間が長かった。画面に数字があらわれてから時間をかけて、数字の位置や順序を確認し記憶していると考えられる。一方で、実験はまだ進行中であり、今後さらに記憶できる数字の数が増えていくことが予測でき、ヒトの子どもとおとなが異なる記憶方略をとるのか検証する。