霊長類研究 Supplement
第24回日本霊長類学会大会
セッションID: P-06
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ポスター発表
霊長類のエネルギー倹約遺伝子UCP1について
*鳥居 寛律竹中 晃子中村 伸光永 総子井上-村山 美穂鵜殿 俊史
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抄録

目的:消費エネルギーを減少させる遺伝子多型はエネルギー倹約遺伝子と呼ばれている。UCP1(脱共役たんぱく質)は褐色脂肪組織のミトコンドリア内膜にあり、電子伝達系で膜間スペースとマトリックスとの間に形成されたプロトン濃度勾配によるエネルギーをATP合成に使用することなく、熱として放出する。寒冷刺激などにより放出されたノルアドレナリンはβ3アドレナリンレセプター(ADRB3)を刺激し脂肪を分解し、産生された脂肪酸がUCP1を活性化する。昨年、我々は調べたすべての霊長類においてADRB3はArg64型の倹約タイプを有していることを報告した。情報の下流に位置するUCP1遺伝子も倹約型であるかどうかを霊長類で検討し、熱産生に関わる進化の過程を明らかにする。
方法:UCP1遺伝子の5’非翻訳領域の-112塩基がAからCに変異することによりmRNAへの転写が減少することが知られている。この領域をPCR法で増幅後、制限酵素MvaIで切断し、ポリアクリルアミド電気泳動法により変異の有無を確認した。
結果:チンパンジー34頭、ゴリラ6頭、オランウータン8頭、ニホンザル8頭においては全てAタイプであった。
考察:霊長類ではADRB3は倹約型を示し、氷河期の厳しい環境を生き延び、ヒトに至る過程でエネルギー消費型のTrp型が出現し、現在では消費型の頻度の方が高くなっている。ADRB3からの情報を受けて活性化されるUCP1では霊長類においてもヒトと同様、より熱産生する型が占めており、熱産生量はADRB3の活動が抑制されることでコントロールされていることが示唆された。

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© 2008 日本霊長類学会
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