抄録
老齢ニホンザルの疾病に関する情報は少ない。我々は、当施設で23年間にわたって飼育された野生由来のニホンザル(♂・推定30歳)の死亡例を経験した。2002年6月頃から臍ヘルニアを呈したが、状態の変化はなかった。2004年6月に嘔吐と下痢を呈したが数日後に回復した。2007年9月から食欲不振、沈鬱、鼠径部の水腫、眼漏が認められ、その後、病状は徐々に悪化し、補液を行ったが、2008年12月に死亡した。なお、2007年10月の血液検査で異常値は認められなかった。病理解剖で、心臓は著しく大型化し、両心室はともに拡張、壁は菲薄化するものの硬結で、割面で白色を呈する部分が広く確認された。全身の皮下は水腫状、多量の胸水および腹水の貯留、肝臓全体の小白斑、脾臓および左甲状腺の結節形成が認められた。組織学的に心臓は軽度から中等度のリンパ球浸潤を伴う強い線維化を呈し、心筋線維は膨化するものと萎縮するものとが共存しており、錯綜配列が多く見られた。肝臓では中心静脈を中心とした巣状壊死を認めた。肺ではしばしばヘモジデリン貪食マクロファージ(心臓病細胞)を認めた。さらに、甲状腺では濾胞上皮細胞の腺腫および傍濾胞細胞の過形成、脾臓では血管腫が認められた。
大脳新皮質では老人斑の形成が認められ、多くが成熟型老人斑であったが、後頭葉にはびまん型老人斑も確認された。本症例では非化膿性心筋炎が基礎となり、緩やかに線維化が進行し、慢性心疾患の状態を呈したものと考えられた。さらにこの病態の続発的な病態として、水腫、胸水ならびに腹水、肝臓の壊死が出現したものと考えられた。推測しうる原因として、コクサッキーウイルスなどが考えられる。すなわちヒトの慢性心疾患の背景には同ウイルスなどが存在し、同ウイルスはマカク属サルにも感受性があることが実験的に知られている。他の病変は加齢に伴う病変と考えられた。