抄録
目的 土食行動は霊長類において広く報告されている(Campbell & Burton,1998, Mahaney, 2005)。その要因としては、フェノール等の植物二次代謝物の吸着及び排出、抗下痢作用、塩分補給による栄養的欠乏の補完等の土壌の特性に関連したものに加え、社会的要因など多様な要因が複合的に影響するとされる(Krishnamani & Mahaney, 2000)。本研究は,多摩動物公園(東京都日野市)オランウータン屋外放飼場において土食行動をするメス2個体の土食の対象となった土壌の地形、植生、物理性、化学性について分析をおこない、いずれの要因がオランウータンの土食行動に影響を及ぼすのかを検討した。
方法 放飼場は西側の緩やかな尾根、東側の緩やかな谷から構成され、土食行動はこの谷の最下部地点で認められた。同地点を含めた放飼場内8地点の土壌を採取し、土色、有機物、礫、構造、コンシステンシー等の土壌の物理性について分析した。また、採取土壌の水分含量、pH、ECを測定した。さらに、オランウータンが土を舐めた際に口腔内で溶け出す水溶性陽イオン、咀嚼時に溶け出す交換性陽イオン、および胃中で溶け出す陽イオンを想定し、採取土壌を対象に水抽出、酢酸アンモニウム抽出、塩酸抽出をおこない、水溶性、交換性および塩酸可溶性のNa、K、Ca、MgおよびFeの含有量測定をおこなった。
結果および考察 分析対象となった8地点と比較して、土食行動の確認された地点のみ草本の被度が著しく低く、土壌表面が露出しているという植生上の特徴が見受けられた。また、同地点の土壌物理性は密度が粗く、砕易性が高いことが判明した。さらに、土壌成分分析の結果、土食行動の確認された地点のイオン構成比は水抽出によるFe、および塩酸抽出によるMgの含有量が高いことが示された。土食行動が認められた地点は斜面の下部にあることから、地形的に土壌成分が堆積しやすく、加えて表土が露出していることがオランウータンの土食行動に結びついたことが示唆された。