霊長類研究 Supplement
第25回日本霊長類学会大会
セッションID: A-3-1
会議情報
口頭発表
テナガザルL-Mオプシン遺伝子の属を越えた非多型性
*樋渡 智秀白井 祐介三上 章允後藤 俊二BAMBANG SuryobrotoDYAH Perwitasari-FarajallahSUCHINDA MalaivijitnondBORIPAT Siriaroonrat太田 博樹河村 正二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
ヒトを含む狭鼻猿類はL,M,Sの3種類の錐体オプシンを持ち,3色型色覚である。LとMオプシン遺伝子はX染色体上に隣接しており,塩基配列も類似している。ヒトではLとMオプシン遺伝子間の不等交差により一方の遺伝子の失欠や両遺伝子のキメラが生じている例が多く,いわゆる色覚異常の原因となっている。一方,ヒト以外の狭鼻猿類ではそれらは例がないか極めて低頻度と報告されている。しかし,ヒト以外の狭鼻猿類でL-Mオプシン遺伝子領域の多型性を塩基配列レベルで多数の個体に対して調査した例は1種のチンパンジーのLオプシンについてのみである。そこで本研究では,これまで色覚多型の知見がないテナガザルの3属8種(H. lar,H. agilis,H. muelleri,H. klossii,H. moloch,H. pileatus,S. syndactylus,N. leucogenys)158個体を対象に,LとMの両方のオプシン遺伝子に対して,エクソン3~5までのゲノム領域約3.6 kbを,PCR法と塩基配列決定によって解析した。その結果,遺伝子欠失やキメラは存在せず,各遺伝子の塩基配列の多型性はエクソンがイントロンよりも低いことを明らかにした。これは両遺伝子とも,多くの遺伝子と同様に強い機能制約下にあることを示している。一方,LとMオプシン遺伝子の間の塩基配列の相違ではエクソンはイントロンより高かった。吸収波長に関わるアミノ酸サイトは少数であることから,このことは,LとMオプシン間で塩基配列を均一化させる遺伝子変換が生じており,エクソンでは各遺伝子の機能(吸収波長)の違いを保持する選択圧により,エクソンに生じた遺伝子変換が集団中に残らないことを示唆している。これらのことはヒトとヒト以外の狭鼻猿類においてはL-Mオプシン遺伝子に対する自然選択の様相が全く異なることを示している。
著者関連情報
© 2009 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top