抄録
飼育下のチンパンジーは,食べたものを吐き出し,再び食べるという吐き戻し(Regurgitation and Reingestion)行動を時折おこなう。先行研究から,採食時間の延長や,繊維質の食べ物の増加による,吐き戻しの減少の事例が報告されてきたが,はっきりとした原因や対策はわかっていない。
本研究では,京都大学霊長類研究所の8歳のオスのチンパンジー(アユム)の吐き戻しを効率よく減少させることを試みた。アユムは,昼食・夕食後(給餌量約600~900 g),認知実験中・後(給餌量約50~150 g)に吐き戻しをおこなっていた。実験期間は2009年1月から2009年4月で,屋外サンルーム・認知実験室で実験・観察をおこなった。
まず,昼食後,6個体の群で生活しているサンルームにイタリアンライグラス1.5 kgをまき,アラカシなどの木の枝を各個体0.2 kg与え,昼食後30分と,認知実験中,夕食後のアユムの行動を観察した。結果,昼食後の吐き戻しがなくなり,認知実験中の吐き戻しが減少し,さらに吐き戻そうとして失敗するという行動が観察されるようになった。しかし夕食後の吐き戻しは変わらなかった。このことから,吐き戻しをおこなう時間を減らすことだけではなく,リンゴ等を食べる前に,繊維質の豊富な木の枝を与え,吐き戻しをしづらくさせるということも吐き戻しの減少につながることがわかった。しかしその効果は長時間続かない。
次に,夕食前に木の枝を0.1 kg,または0.2 kg与え,夕食後の行動を観察した。夕食後にも吐き戻しを失敗するようにはなったものの,時間がたつと吐き戻しを連続しておこなった。このことから,多量の食べ物を与える昼食・夕食後には,草を探しながら食べることで時間をつぶさせ,少量の食べ物を与える実験中・後は,あらかじめ木の枝を与えておくという別々の対策を組み合わせることが効果的であることが示唆された。