抄録
テングザルがなぜ川沿いにのみ生息・適応したのかという明確な理由は未だ明らかにされていない。多くの先行研究は,川沿いが地上性の捕食者からの攻撃を回避するために有利であることをその理由に挙げている。しかし,川沿いが捕食者回避に有利な場所であるならば,他の同所的に生息する霊長類も捕食の回避のために川沿いを頻繁に利用するはずであるが,そのようなデータは未だ示されていない。一方,本種の川沿いへの適応と餌資源量の関係については,これまであまり議論されてこなかった。これはテングザルが好む生息環境である河畔林は,足場が悪く,本種の行動と餌資源量の関係を詳細に観察することが困難なことが原因であった。しかし本研究では,比較的地盤の安定した川辺林を調査地として選定することで,終日テングザルのハレム群を追跡することが可能となり,川辺だけではなく,林内も含めた本種の行動と餌資源量の関係を調査することに成功した。そこで本発表では主に,2005年5月から2006年5月の13ヶ月間(各月2回)に行ったラインセンサスの結果を用いて,テングザル以外の霊長類においても川辺(川から<50 m)が林内(>50 m)よりも頻繁に利用されていることを示す。また,13ヶ月の調査期間にテングザルのハレム一群より収集した3000時間以上の行動観察をもとに,川辺と林内の行動を比較する。以上より,捕食圧と餌資源量がどのようにテングザルの川辺への適応に影響したのかを考察する。