霊長類研究 Supplement
第25回日本霊長類学会大会
セッションID: B-2-5
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口頭発表
ニホンザルの母子の葛藤にみられる生後1年半の発達変化
*山田 一憲中道 正之
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抄録
【序論】生後初期のニホンザルの母子は,身体接触や授乳を通じて極めて密接な関係にある。しかし離乳期には,授乳を求める子ザルと,離乳を求める母ザルとの間に,葛藤が生じる。この離乳期において,子ザルは初めて,他個体との激しい利害の対立を経験する。本研究では,乳首接触をめぐる母子の相互交渉を,子ザルの生後1年半にわたり縦断的に調べることによって,子ザルが他個体(母ザル)との利害の対立に対処する能力をどのように獲得していくのかを検討した。
【方法】勝山ニホンザル集団において,子ザルと母ザル11組を対象とし,2004年7月から2005年10月までの162日間,総計405時間の縦断的な行動観察を行った。子ザルの月齢に応じて観察期間を「0歳齢前半」「0歳齢後半」「1歳齢前半」の3期間に分類し,子ザルが乳首接触を試みた時の母ザルの活動内容と,子ザルが試みた乳首接触に対する母ザルの拒否行動の有無を記録した。
【結果と考察】子ザルが0歳齢前半の時,母ザルによる乳首接触の拒否は,低頻度であり,母ザルの活動内容とは関連していなかった。子ザルも母ザルの活動内容には関係なく乳首接触を試みていた。一方で,子ザルが0歳齢後半や1歳齢前半に成長すると,乳首接触の拒否が増加し,母ザルは自分の活動内容によって乳首接触の拒否率を明確に変化させていた。この離乳期の母ザルの変化に対応して,母ザルが「採食・移動」や「他個体に毛づくろいを行う」といった乳首接触を拒否しやすい活動を行っている時には,0歳齢後半や1歳齢前半の子ザルは乳首接触を行わないようにしていた。
本研究によって,ニホンザルが「母ザルの活動内容に合わせて乳首をくわえるタイミングを調節する能力」を発達的に獲得していることが示された。このことは,他個体(母ザル)との利害の対立に対処する能力,すなわち,社会的知性の萌芽が,離乳期の母子の相互交渉において見られることを意味している。
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© 2009 日本霊長類学会
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