抄録
【目的】チャイロキツネザルは複雄複雌群を成し,周日行性の活動リズムを示す果実食性原猿である。生息地であるマダガスカル北西部の熱帯乾燥林では明瞭な雨季(12月~3月)と乾季(5月~10月)にわかれ,食物資源量の季節変動が著しい。この季節変動に対してチャイロキツネザルはどのように活動や遊動を変化させるのか。本発表ではチャイロキツネザルの1年間の活動性,採食内容,遊動パターンを示し,各季節での採食戦略について考察する。
【方法】12個体で構成される1群を対象に終日観察(6:00-18:00)を2006年12月から1年間行った(計1252時間)。群れはまとまって遊動するため,群れ全体の行動や利用した食物を1分間隔で記録し,GPSで各行動が起こった場所を定位し,GISで解析した。乾季は終夜観察(18:00-6:00)も行った(計164時間)。
【結果と考察】雨季の月あたりの利用果実は21.5種で,利用果実のパッチ密度は高かった。パッチをめぐる採食と移動が一日中見られ,安定した長い日遊動距離,広い遊動域(50 ha)が維持された。乾季は月あたりの利用果実が9.2種に減少し,そのパッチ密度も低くなった。中でもVitex属1種の果実とラン科草本が圧倒的な頻度で利用され,果実パッチの繰り返し利用率が高くなった。乾季は日中の休息時間が増えて移動時間が減り,活動は朝夕に二極化した。夜間の観察も見られたが,朝夕の活動量に劣る。乾季の遊動距離は短く,遊動域は狭かった(20 ha)。季節の移行期(4月と11月)には安定した遊動域から1.5 kmほど離れたパッチに数週間滞在し,1,2種の果実を集中して利用するMigration行動が見られた。果実資源の利用可能性の季節変化が著しい熱帯乾燥林に生息するチャイロキツネザルは,食物獲得に費やす労力と報酬のトレードオフにより活動性と遊動パターンを切り替えていると考えられる。