抄録
【目的】ヒトと同様にニホンザルでもミトコンドリアDNA(mtDNA)の非コード領域にふたつの可変域がある。滋賀全県の群れにつき,両可変域の多様性の違い,ハプロタイプの地理的分布の特徴を分析し,塩基置換にみられる分子進化の特徴とニホンザルの集団研究へのmtDNA標識の利用価値を検討した。
【方法】県内のニホンザル96群から当該群生まれの個体を採血し,DNA試料を調製した。PCRでmtDNAの非コード領域を増幅し,上流部可変域(HVR1)474-475塩基と下流部可変域(HVR2)412塩基をdirect sequencing 法で解読した。可変域による置換サイトの種類,割合,分布パターンを比べた。また,各群のハプロタイプを分類し,タイプの出現頻度,全県のタイプ多様性を可変域間で比べた。さらに,ハプロタイプの分子系統関係をクラスター分析で解析し,県内の系統地理関係が可変域間で相関するかを検討した。
【結果・考察】96群について,HVR1には18,HVR2には8のハプロタイプが区別できた。塩基配列の全体サイズが異なるタイプは少なく,HVR1で1塩基の欠失をひとつ検出したのみだった。置換サイト数はHVR1で34(7.16%)(塩基欠失サイトを含む),HVR2で14(3.40%)であった。これらの結果は,比較した配列ではHVR1がHVR2より可変性が高いことを示している。ハプロタイプから大別できたクラスターの構成には,両可変域で相関が認められた。県内の群れが示すmtDNAハプロタイプの系統地理的特徴にこの関係は反映されていた。いずれの可変域を標識にしても,mtDNAでは個体群が遺伝的に不連続な構造をもつことは明らかで,female philopatryを反映する結果と考えられた。一方,ハプロタイプを細分できたHVR1では,HVR2で検出できない群れの系統地理的関係が推定できた。