抄録
哺乳類において上腕のレトラクタ(retractor)に分類される広背筋,大円筋,大胸筋尾側部は,その名の通り上腕が後方に引っぱられるときに活動し,四足ロコモーションの推進力を発生させる機能を担うと考えられている。
しかし,これまでに研究対象となった10種の霊長類(曲鼻猿4種,新世界ザル3種,旧世界ザル2種,類人猿1種)では,レトラクタは上腕が後方に引っぱられるときに,活動しないか,あるいはわずかな活動電位しか発生させないことが報告されている(Larson and Stern, 2007)。
霊長類と他の哺乳類とで上腕のレトラクタの活動パターンが異なることについて,霊長類における体重支持の後方移動などとの関連性が指摘されている。
本研究の主目的は霊長類における上腕のリトラクタの筋活動にかんする新しいデータを収集し,これまでに提示された仮説を検討することであった。また副次目的として,レトラクタ以外の上肢筋についても筋活動を調べ,その機能を検討した。
研究対象として,これまで未検討のマカク類からニホンザルを選択した。ニホンザルは半地上性であるため,水平な歩行路と模擬的な樹上支持基体の両方を歩行させた。
サルが四足ロコモーションを行っているときに,広背筋,大胸筋,三角筋前側部および後側部,上腕三頭筋の筋活動電位を表面電極で記録した。筋活動電位の測定とは別個に,三次元運動解析を行い,上腕の角度変化を明らかにした。
ニホンザルの上腕のレトラクタが他の哺乳類と似たような筋活動を示すなど,先行研究の報告と一致しない結果が一部得られた。本研究と先行研究との方法論の違いをふまえつつ,既存の仮説を検証する。