抄録
今までテングザルにおける、個体識別に基づいた詳細な行動観察は行われてこなかったため、本研究により多くの新しい知見を得ることが出来た。2005年から2006年にかけて、マレーシア・サバ州において、テングザル1群(オトナ♂:1、オトナ♀:6、未成熟個体:9)のオトナ個体の社会交渉を個体追跡法により記録した(観察時間 ♂:1,968h、♀:1,539h)。解析の結果、群内の個体間には希薄ながらも優劣関係が認められたが、個体間の毛づくろいの方向性には優劣関係は反映されていないことが明らかになった。また、本種の毛づくろいネットワークを、他の霊長類と比較・検討した結果、本種のネットワークは、父系、双系社会の霊長類種と類似していることがわかった。母系的な社会が示唆されてきたテングザルだが、本解析と、実際にオス・メスの移出入が報告されていることなどから、テングザルは双系タイプの社会の特徴を保持していることが明らかとなった。