霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-19
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口頭発表
ムカラバのチンパンジーの糞分析による食性調査
*竹ノ下 祐二安藤 智恵子
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抄録
はじめに:人類の食性の進化過程の復元にあたり、現生チンパンジーの食性の研究は有用である。とりわけ、動物食に影響する生態学的・社会的要因の研究は、人類の動物食への適応過程の解明に多くの示唆を与えるだろう。Bogart & Pruetz (2010)は西アフリカの乾燥地でチンパンジーによるシロアリ採食量が多いことから乾燥地適応と昆虫食の進化の関連を示唆した。だが湿潤な森林に覆われた中央アフリカでもチンパンジーの昆虫食の頻度が高く(McGrew & Rogers, 1983; Suzuki et al. 1995など)、単純に乾燥化と昆虫食の増加を関連づけるのは早計である。
 ガボン、ムカラバ国立公園では、人づけの進んだゴリラほどの情報の蓄積はないが、チンパンジーに関しても間接資料は一定の蓄積をみた。本発表では4年分の糞分析結果に基づき、ムカラバのチンパンジーの食性を記述する。本発表で示す結果の概略は2008年度のPSJ東京大会において発表したが、今回はより細かな分析結果を示し、あわせて今後の調査の方向性を示したい。
方法:調査キャンプ周辺でチンパンジーの糞を採集し、一般的な類人猿の糞分析手法にしたがって内容物の分析をした。今回使用するのは2003年4月から2007年2月までの46ヶ月分、450個の糞のデータである。
結果:糞中の果実の体積割合は平均76%で、年間を通じて高い割合を維持した。果実種数は平均4.7種で、森林内の果実種数とは相関しなかった。昆虫、脊椎動物を含む糞はいずれも少なく、それぞれ全体の3.8%、5.6%だった。
考察:ムカラバのチンパンジーは他地域同様「熟果追求型の雑食者」といえる。他方、動物食の頻度が低いことがムカラバの特徴である。動物食が少ない要因は2つ考えられる。第一に社会性昆虫相が貧弱である。とくに、他地域で好まれるMacrotermes属のシロアリの密度が低い可能性がある。第二にコロブスがいない。チンパンジーにとってコロブスは主要な獲物であると同時に葉をめぐる競争者である。その不在がタンパク源として葉の利用を促進しているのかもしれない。
 今後ムカラバでチンパンジーの動物食が少ない原因を解明するには、昆虫相の定量的調査と葉食の調査が求められる。後者には直接観察頻度を増やす努力も必要だが、同時に糞分析から葉食について得られる情報を増やす新手法の開発も検討課題である。
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© 2011 日本霊長類学会
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