霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: B-13
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口頭発表
飼育下ニシゴリラの道具使用
*長尾 充徳釜鳴 宏枝田中 正之
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抄録
 これまで野生の大型類人猿で報告された道具使用は、チンパンジーによるものがほとんどである。野性ゴリラについての報告例は少ないが、2005年にコンゴ共和国において、メス個体が沼地での水中歩行時に長い枝を杖代わりに使用したことや、水中の水草を長い枝で引っかけて採取するなどの報告がある。一方、飼育下では、海外の動物園において数例の報告がある。しかし、日本の飼育下ゴリラにおいては報告例がなく、エピソード的なものにとどまっている。
 本研究では、京都市動物園で飼育中のニシゴリラにおいて観察された道具使用を、その習熟過程に焦点を当てて縦断的に調査した。対象はモモタロウと名付けられた10歳のオス個体で、2010年10月に恩賜上野動物園から来園した。来園後、簀ノ子下に入り込んだ餌を枝で掻き出す自発的な道具使用が観察された。そのため、この操作が引き出せるようなフィーダーを作製し、屋内展示室に設置した。観察は屋内に設置している監視カメラの録画記録を利用して行った。
 設置したフィーダーは、一辺の長さが約55cm、高さ約15cmの直方体の木枠を床面に固定し、透明ポリカーボネイトを天板として取り付けた。木枠の3辺に合計6か所(1辺各2か所)の取り出し穴(長さ約15cm、高さ10cm)を開けた。
 フィーダー内には、リンゴ、ニンジン、サツマイモなどの小片を合計約1000g入れた。室内にはこの他に葉物野菜や、カシの枝などを複数箇所に置き、夕方の給餌分とした。観察はフィーダーを設置した2011年2月2日から開始し、現在も継続中である。
 モモタロウは、設置初日から餌として与えているカシの小枝を払うなどの加工を施して穴に挿入し、餌を取り出す道具使用行動を見せた。道具使用を試みた時間は5日目から増加に転じ15日目以降は合計30分間でほぼ全ての食べ物を取り出せるようになった。観察の結果、モモタロウはフィーダーに対する座り位置がほぼ一貫しており、それに対して正面の穴に枝を挿入する回数が圧倒的に多く、その際にはほとんど左手を使った。しかし、向かって右側の穴には右手を使う割合が多くなり、場所によって道具を扱いやすい手に使い分けていることが示唆された。枝の使い方については、初日から18日間の観察で、力任せに枝を振る方法から、向かい側の穴に押し出したり、手前の穴に優しく引き寄せたりするなどの技術の向上や手順の確立が見られた。
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© 2011 日本霊長類学会
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