抄録
脊椎動物において苦味は舌の味細胞に存在するTAS2Rタンパク質によって受容される。ヒトゲノムに存在する20数個のTAS2Rのうち、苦味物質との対応が20個あまりについて同定されてきているが、これらの機能が他の霊長類種において同様であるか検討されている例は少ない。今回、我々はサリシンなどのβ-グルコシド系の苦味物質を受容すると考えられているTAS2R16について、カルシウムイメージング法により種間の機能差や感受性について検討した。ニホンザルのTAS2R16はヒトTAS2R16と約95%のアミノ酸一致度を示す。HEK293培養細胞を用いてニホンザルTAS2R16を発現させたところ、ヒトTAS2R16と同様に細胞表面に発現した。ところが、サリシンなどのβ-グルコシド系の苦味物質やアミグダリンなどの青酸配糖体に対する感受性はヒトTAS2R16よりも10倍以上低かった。キメラタンパク質や部位特異的変異体を用いた解析の結果、この感受性の違いは3番目の膜貫通領域に存在しているグルタミン酸の変異に由来することがわかった。このグルタミン酸残基はヒトTAS2R16の変異体解析によりリガンド結合部位を形成していると考えられていて(Sakurai et al., J. Biol. Chem. 2010)多くの霊長類種で保存されているが、マカクの系統で変異が起こっている。実際、他の霊長類種のTAS2R16の多くはヒトTAS2R16と同様にサリシンなどを受容するため、マカクで起こっている感受性の低下の意義は興味深い。発表では行動学的、進化的、生態学的見地から議論したい。