抄録
距骨は骨格の中で適度に扱い易いサイズで、頭骨や長骨などと比べると壊れていない状態で化石として発見される確率が比較的高い。また、他の骨と容易に区別できる特徴的な形態をしていて、さらにその動物の行動形態をよく反映しているので、霊長類の骨格化石の中では比較的よく研究されている。しかし、距骨サイズと化石動物の体サイズとの関連性を調べた研究は歯牙のそれと比べるとまだ少ない。
ここでは、距骨化石からその化石霊長類の体重を推定するために、現生霊長類・ツパイ類の距骨サイズの計測をおこなって、距骨サイズと体重との関係を検討した。使用した標本は霊長類17種28個体およびツパイ類1種3個体で、すべて大人の個体である。体重値は個々の標本の体重データを使用した。計測部位は9箇所を設定し、自然対数変換したそれぞれの計測値と動物の体重との相関関係(アロメトリー)を、単回帰分析により検討した。回帰分析の結果および計測時における計測点の安定性の検討の結果、「距骨の長さ(近位-遠位の距離)」・「距骨の幅(内側-外側の距離)」・「距骨の滑車の幅(滑車の内側-外側の距離)」を使うのが体重推定に最も適していることがわかった。たとえば、今回の使用した標本の全個体を対象とした場合、各計測値と体重との回帰式は次のようになった(単位:体重は[g]、計測値は[mm]): log [体重] = 3.12 log [距骨長] - 0.81; log [体重] = 2.68 log [距骨幅] + 1.45; log [体重] = 2.93 log [滑車幅] + 1.67。
この結果を応用して、ミャンマーの始新統ポンダウン層から記載されているアンフィピテクス科霊長類の距骨化石NMMP-39およびNMMP-82を体重推定した。結果は、NMMP-39は約2.2~2.9 kg、NMMP-82は約4.0~5.3 kgとなった。今回の推定体重から考えると、NMMP-39はGanlea megacanina(体重約1.9~2.4 kg)のものである可能性が高く、また、NMMP-82はAmphipithecus mogaungensis(体重約6.0~7.5 kg)またはPondaungia cotteri(体重約5.9 kg)のものである可能性が高い。