霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-03
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口頭発表
マンドリル(Mandrillus sphinx)の群れの分派と社会構造
*本郷 峻
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抄録

 アフリカ大陸中部の熱帯雨林林床に生息するマンドリルMandrillus sphinxは、最大800個体を超える群れが報告され、100 km2以上に及ぶ広大な遊動域を持つことで知られる。系統的には、one-male unitを単位とする重層社会を持つマントヒヒやゲラダヒヒを含む、ヒヒ亜族(Papionina)に分類される。これまでいくつかの野生群を対象とする報告がなされているものの、観察の困難さ・広い遊動域などの理由により研究は極めて遅れており、社会構造に関する統一された見解は得られていない。本発表では、野生マンドリルの集団個体数の変化や群れの社会構造に関する予備的な結果を報告し、彼らの食性の季節的変化との関連から考察する。
 調査はガボン共和国・ムカラバ‐ドゥドゥ国立公園において、2009年8-11月と2010年1-6月の間、合計約7ヶ月間にわたり実施された。約30 km2の調査域において発見されたマンドリル集団の個体数を目視によりカウントするとともに、集団が調査路や川など開けたところを横切る際にビデオカメラで撮影し、群れの性・年齢構成と移動時の個体順序を分析した。また、通跡上の糞を採集して分析し、果実・葉・葉以外の繊維質・アリなど節足動物などの食物カテゴリー体積比から食性を推定した。
 調査の結果、集中分布する果実を多く食べる時期の方が、繊維質や地表のアリ類といった高密度一様分布する食物を多く食べる時期に比べて、集団内でカウントされた個体数が有意に少ないことがわかった。また、しばしば集団が複数の小集団へ分派し、再び合流することも観察された。これらの結果は、マンドリルが各時期の主要食物の分布様式に対応して、分派と合流によって群れのまとまりの程度を変化させている可能性があることを示す。
 さらに、集団に占めるオトナオス・ワカモノオス(推定6歳以上)の割合は、最大でも7.2%にしか及ばず、移動時の個体順序もone-male unitとして想定されるものとは異なり、オトナオス・ワカモノオスは集団内に均等に配置されていなかった。この結果は、マンドリルが極端に社会性比に偏りのある群れ構成を示し、マントヒヒやゲラダヒヒで見られるような重層社会とは異なる社会構造を持つことを示唆する。

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© 2011 日本霊長類学会
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