抄録
攻撃を受けたニホンザルは、その攻撃交渉とは関わりのない個体に対し攻撃を行うことがある(二次攻撃)。二次攻撃は、ニホンザルのみならず、原猿から類人猿まで広く見られる行動であることが知られているが、この行動が行われる理由については、はっきりと明らかにされていない。発表者は、最初に観察された攻撃交渉を「一次攻撃」、その後1分以内に、被攻撃個体が行う他個体への攻撃を「二次攻撃」と定義し、ニホンザルが二次攻撃を行う理由を明らかにすることを目的として研究を行った。
嵐山モンキーパークの餌付けニホンザル集団を対象とし、攻撃交渉をアドリブサンプリング法で観察した。攻撃交渉を観察した際、攻撃個体、被攻撃個体、二次攻撃の有無とその対象を記録した。その後、一次攻撃の被攻撃個体の個体追跡を10分間行い、その間の攻撃交渉を記録した。
その結果、被攻撃個体は
1. 一次攻撃後1分間は、その後9分間と比べ攻撃を受ける割合が高いこと
2. 二次攻撃を行うと、一次攻撃後1分間に攻撃を受ける割合が、二次攻撃を行わなかったときに 比べて大きく下がること
が明らかになった。
被攻撃個体が攻撃者に対して見せる劣位の姿勢は、一次攻撃者に対してのみならずその攻撃交渉を見ていた第三者に対しても、被攻撃個体がその時点で劣位な状態にあるという印象を与え、第三者の被攻撃個体に対する攻撃衝動が高まると考えられる。したがって被攻撃個体は、二次攻撃を行うことで自分は弱者ではないと周りの個体にアピールし、追加の攻撃を受けることを避けていると考えられた。