抄録
野生チンパンジーは夜間、樹上に枝を組み、円形のベッドを作って眠る。このベッドは、チンパンジーが安全で快適に眠るのに役立つとされているが、実際にチンパンジーがベッド上でどのような姿勢を好むのか分かっていない。また、野生チンパンジーは昼間、地上や枝上、あるいはベッド上で休息をとるが、実際にどのような姿勢を好むのか分かっていない。本研究は、野生チンパンジーが夜間や昼間にどのような姿勢で休息しているか明らかにし、より良い休息姿勢について考察する。調査はタンザニア、マハレ山塊国立公園にて、2010年12月から2011年1月までおこなった。調査は夜間と昼間におこなった。夜間調査は、チンパンジーがベッドを作成した後、そのベッドを見下ろせる丘に赤外線投光器および赤外線ビデオカメラを設置し、撮影をおこなった。そしてこのビデオを用い、休息姿勢(座位、仰臥位、腹臥位、左側臥位、右側臥位)、体動を記録した。昼間調査は、10分ごとのスキャンサンプリングをおこない、個体名、行動(休息、その他)、休息姿勢、場所(地上、枝上、ベッド上)を記録した。夜間調査は4夜おこない、2夜について分析したところ、野生チンパンジーは左側臥位や右側臥位で眠ることが多く、仰臥位、腹臥位で眠ることは少なかった。また、夜間に糞便する際には、腹臥位でベッドからお尻を出しておこなっていた。昼間調査は18日間おこない、地上(N=457)、枝上(N=338)、ベッド上(N=58)で休息姿勢を比較したところ、地上、枝上では休息の半数以上が座位であったのに対し、ベッド上では約24%だった。休息場所によって臥位の選好性に差はみられず、どの場所でも、仰臥位、左側臥位、右側臥位がほぼ等しく観察された。これらの結果から、チンパンジーは、夜間睡眠時に座位ではなく臥位、とくに側臥位をとることが明らかになった。また、昼間にベッドを作る理由も、座位ではなく臥位をとるためと考えられた。夜間と昼間で臥位の選好性が異なること、昼間、場所により臥位の選好性が異ならない理由については、温度環境や睡眠の浅さなど、その他の要因を含めて考察をおこなう。