抄録
子が未熟な状態で生まれ、親の世話が子の生存、発達に必須である哺乳類には、養育動機が備わっている。げっ歯類の研究の多くで、この動機は子を回収する行動によって測られている。協同繁殖をおこなうマーモセットでは、子の世話行動は主に家族内で子を背負っている時間によって評価されてきたが、この値は必ずしも個々の個体の養育動機を反映しているわけではない。
本研究では、子どもへの養育動機のひとつの指標として、乳児回収テストをおこなった。身体計測および健康チェックのために2~3分養育個体から引き離した乳児(1~9日齢)を、飼育ケージに戻すときにキャリングケージに入れ、飼育ケージ内の父親、母親、兄姉個体それぞれに呈示した。キャリングケージの入り口を開放してから、被験体が乳児を自分の身体にしがみつかせるまでの時間を測定した。父親8個体、母親8個体、兄14個体、姉9個体、計39個体を対象にこのテストをおこなった結果、父親はどの個体も比較的速やかに乳児を回収したのに対し、母親では回収するまでに要した時間に、個体によって大きなばらつきがみられ、中には呈示時間中(3分間)に回収しいない個体もいた。経産の母親は比較的速やかに乳児を回収するが、初産の母親は回収に時間を要するという傾向がみられた。また、兄姉個体は最初の数日、父親個体に比べ回収に長い時間を要したが、その後すぐに回収に要する時間は親のそれと同程度となった。
家族内で背負い行動を観察した先行研究では、生後1週間、主に乳児を背負っているのは父親と母親であり、母親の背負い行動は一定時間以上観察されるのに対し、父親の背負い行動の個体差が大きいという報告がある。また、兄姉個体は2週目以降よく背負い行動をおこなうようになることがわかっている。本研究の結果と比較すると、回収テストでみられる養育動機は、母親と父親では背負い行動に必ずしも反映されていないが、兄姉個体では反映されている可能性が示された。