霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: P-36
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ポスター発表
ヒト幼児における間接互恵性に関わる行動傾向
*大西 賢治加藤 真由子金澤 忠博日野林 俊彦
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抄録
 ヒト(Homo sapiens) が大規模な利他行動のネットワークを形成することができるのは、間接互恵性が成立しているためであると指摘されている。間接互恵性とは、他者に行った利他行動が回り回って別の他者から返ってくる仕組みのことで、この仕組みは、集団の成員が第三者間のやり取りの情報からある他者を評価し、後にその他者に対して利他的に振る舞うかどうかを決定することによって維持されている。先行研究から3.5歳の幼児はより利他的な他者に自分の資源を多く分配すべきであると考えており、4.5歳ではそのような分配の理由を説明できることが明らかになった。しかし、このような間接互恵的なやり取りは実生活でも行われているのだろうか。本研究では、幼児が実生活の中で他児に対して間接互恵的に振る舞うのかを検討した。
 保育園で、5-6歳齢クラスに在籍する70名の児(男児35名、女児35名)を対象としてデータを収集した。追跡児12名(男児6名、女児6名)を選び、それらの児が他児(受け手)に向社会的行動(分与行動、援助行動)を行った瞬間から10分間の観察を行った(PP場面)。PP場面の始めに追跡児の周囲1m以内にいた児(受け手以外)からランダムに選んだ1名を近接児とし、近接児が追跡児に向けた向社会的行動を記録した。また、後日追跡児に近接児が近接しているのを発見した瞬間から10分間同様の観察を行い、コントロール場面(MC場面)とした。
 PP場面とMC場面の比較の結果、近接児は、追跡児が受け手に向社会的行動を行ったのを見た直後に、普段よりも高い頻度で追跡児に対して向社会的行動を行っていた。この効果は追跡児が普段受ける向社会的行動の頻度や追跡児と近接児の仲の良さを統制しても消えなかった。このことから5-6歳齢児は、実生活の中で間接互恵的な行動傾向を示していることが確認された。
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© 2012 日本霊長類学会
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